7話 それは伝説の英雄の様に


空に何かの気配を感じた。


「シルスちゃん、あれ、碧依くんが追い払った翼竜じゃない?」

「なんか3羽に増えてる」

「見た感じ子どもかな」

「なんだろうこの感じ?」

「子どもに美味しい物を食べさせようとした感じがあるよね」


シルスとはなもりは、コクピット内で会話していると、


「何、のんきな会話してるんですか!」

馬車の上から鏑矢を放ちながら碧依くんが、叫んだ。


「なんか式神の中って安心感半端なかったから・・・つい」

「俺が囮になります。2人は逃げてください!

夕凪、翼竜に食われたくなければ走れ!」


夕凪、接続式神が乗っている優しい方の騎馬だ。


翼竜に食われたくなければ!

の言葉に、夕凪は上空を見上げた。

馬の明らかに恐怖に駆られた表情は始めて見た。

結果、優しい夕凪ちゃんは、危険な程の疾走を始めた。


「!」

「いやいやいやいや!速すぎ!」


馬に乗るのも大変なのに、接続式神越しに、馬を操縦するなんて、無理難題すぎる。

とりあえずシルスは、手綱をしっかり握る事だけを考えた。

接続式神が上手く乗りこなせてないのか、揺れが半端なかった。

悲鳴を上げるはなもりは、シルスに抱き着いた。


はなもりの身体の柔らかさに、少しだけ理性を維持する事が出来た。

コックピットに映る視界が、明らかに馬上ではなかった。


「落ちる?!」

はなもりの声が響いた。


あぶみあぶみあぶみ!」

バタつく接続式神は、鞍の鐙を探った。


「シルスちゃん、翼竜が降下してきたぁ!」

シルスは背後で翼竜が降下してくる気配を感じた。


「とりあえず式神をちゃんと鞍に座らせないと・・・」

接続式神は、鞍の鐙を掴み、なんとか体勢を整えることが出来た。




「なんで折角の囮の俺の方に来ないんだよ!」

碧依は翼竜に向けて鏑矢を放ったが、3羽の翼竜たちはシルスたちから離れようとはしない。


「やっぱり人の魂が欲しいのか?」


碧依は、馬車の馬のあずま屋を加速させた。でも

「おい、あずま屋。もうちょっと急げや!君は危機感ってものがないのか?」


遅い馬車から翼竜を見上げた。

姫さまが支配する空間なら、最強式神として、あの位なら瞬殺出来るのだが、今は。

「しかし、どうする?」

碧依は、愛する姫さまの事を想った。そして、

鞍に座り体勢を立てなおしたシルスに向かって、


「シルスちゃん!剣を抜いて!」

「えっでも式神の戦闘力はゼロだって、戦えないんでしょ」

「大丈夫、接続式神のはったり力は凄まじいから」

「・・・」

「大丈夫だって!」

「解ったやってみる!」


馬車の遥か前方を走る夕凪に跨る接続式神は、腰に差している剣を抜き上空に向かって突きあげた。

剣に太陽の光が当たり、キラリと輝いた。

その様子はまるで荒野を走る伝説の英雄のように、眩しい輝きを放っているように思えた。


その様子に、上空の翼竜は明らかに警戒の距離を取り始めた。


「もう大丈夫だよ、夕凪」

シルスの声に、夕凪は静かに足を止めた。

接続式神を乗せた夕凪は、振り返り翼竜と対峙した。


夕凪は、接続式神に背を預ける馬らしく、誇り高く神々しかった。

そして接続式神も勇ましく剣を構え、翼竜たちを睨み付けた。


伝説の英雄のような接続式神に対峙された翼竜の親子は、上空を何回か旋回した後、去って行った。


歴女∧時代劇オタクの思惟(シルス)は、幼き頃より1人鏡の前で刀を構え、どうすれば強くカッコよく見えるか、研究していた。


「まさかそれが役に立つ日が来ようとは!」

少なくとも翼竜には、強そうに見えたらしい。


もう~にやにやが止らない。






つづく






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