6話 破壊された石造りの街の白猫

一緒に寝食を共にした後だからかも知れないが、はなもりとの距離がすっごく近くなった気がする。


「乗っても良い?」

「良いよ」

と、はなもりが接続式神のコックピットに乗り込んできた。

はなもりは迷うことなく、シルスの膝の上に座った。


今のところ危険もないし、歩いているだけだから、大丈夫だろう。

まあ戦闘力ゼロの式神だし、良いか。


はなもりのお尻は柔らかく、少女そのもののだった。

妖精と言っても、人間とはあまり変わらないみたいだ。


「あたし整備員だから、動いてるのに乗った事がないんだ♪」

はなもりは、初めて自動車に乗った子どもの様に、はしゃいだ。



破壊された石造りの街を通り過ぎた。


「誰かに破壊されたの?」

シルスが聞くと、碧依くんは意味ありげに空を見上げた。

碧依くんは『自分の口からは何も言えない』的な雰囲気を醸し出した。

『察してくれ』と。


でも、はなもりが、

「碧依くんはね~知ったかぶりが多いんだよ。多分、知らないはず」

「えっそうなの」


碧依くんが仮面越しに、こっちを見た。

仮面越しだから、表情は見えないが、きっと知ったかぶりなのだろう。


「シルスちゃん見て、あそこに猫がいる」

破壊されたであろう石造りの街に、白い猫がニャーニャー鳴いていた。


「あれ見た事がある」

「えっ?」

「旅館にいた白猫に似てる」


馬車の碧依くんは、

「地上の猫がここに来ることは不可能なはずだけど」


地上とここの間には、妖精の王国がある。

それを越えて来るのは、まあ不可能だろう。


白い猫は、石畳を進む馬車と騎馬を見上げ、ニャーニャーと鳴いた。

まるで連れて行けと言ってるようだ。


「どうします?」

碧依くんがシルスに尋ねた。


『なんでわたしに聞く?』とシルスは一瞬戸惑ったが、このチームのリーダーは自分なんだと、この時、理解した。


シルスは、オリジナルの思惟の時に、旅館で出会った白猫を思い出した。

そう言えば、あの猫、何か言いたそうだったっけ。


「出汁ようの煮干しが大量にあったから、餌には多分困らないよ」

はなもりがそう言ったので、

「連れて行っても大丈夫?」

と碧依くんに聞くと、

「大丈夫でしょう」

と言ったので、白猫もチームに入れることになった。


白猫は、自分が受け入れられたことを察したのか、馬車に飛び乗った。

接続式神に乗ってると感じないけど、今は妖精サイズのシルスにとって、それは巨猫と言えるほどの大きさだった。




つづく

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