5話 若女将冥利に尽きるに尽きるわ~

結局、ベットが二つあるにも関わらず、寝落ちして同じベットで眠ってしまったみたいだ。


妖精と一緒に寝てるなんて不思議な気分だ。


はなもりの手が、シルスの頬に触れていた。

柔らかくて優しい手だ。

はなもりに触られると、なんだか良い事が起きそうな気分になって、わくわくする。


「2人とも起きてください。もうすぐ出発しますよ」

トランクケースの外から、碧依くんの声が聞こえた。


「はなもり、起きて」

はなもりは目を覚ますと、キス顔をして、おはようのキスを求めて来たので、口元を指先で軽く触った。

「もう、そっちじゃなくて~」


トランクケースの家でちょっと不便なのは、お手軽な窓がない事だ。

トランクケースとしての耐久性を維持する為だろう。

ただ屋根が大きく開くのだ。


「開けますよ」

と碧依くんが言うと、トランクケースの家の屋根が開き、朝日が家中に入ってきた。

そして、朝日に照らされた大きな碧依くんが見えた。


まだベットの上のはなもりが、

「もう碧依くんのえっちー!まだ準備が!」

「ごめん、ごめん」

トランクケースの家の屋根は再び閉じられた。


シルスは、米を炊き、卵焼きを素早く作りスープを軽く温めた。

女将見習いなだけあって、朝には強いし凄まじく手際は良い。


まだ寝ぼけているはなもりは、その様子をぼんやり眺めながら、

「うわっ!めっちゃ美味しい!王国でこんなに美味しい物食べた事がない!」

「え~そんなにはないよ~」

はなもりの満面の笑顔は、本当に美味しかったらしい。


若女将冥利に尽きるに尽きるわ~


身支度を済ませて、トランクケースの家から出ると、焼き鳥の匂いがした。


やっと目覚め始めたはなもりは、

「朝から焼き鳥?」

「焼き鳥と言うか・・・丸焼きだね」

「さすが最強式神」


テントの前では、碧依くんが弓を射って掴まえたであろう鳥を、丸焼きにして食べていた。


「うわ!うわ!うわ!」

翡翠の仮面を取って食べていた碧依くんは慌てて、仮面を付けた。


「碧依くん、なかなかカッコ良いかも」

「でしょう、仮面付けてるのはもったいないよね」

はなもりとシルスは、微笑した。


碧依くんは、シルスとはなもりに背を向けて、丸焼きを食べ終わると、テントを片付けた。


「さあ行きましょう」

碧依くんが手を差し出し、シルスはその手に乗って、接続式神のコクピットに入った。


接続式神を起動させ騎馬に乗り、碧依くんは馬車の御者席に座り、はなもりはその碧依くんの隣に座った。


碧依くんの隣に、ちょこんと座るはなもりはとても可愛かった。



つづく

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