3話 忘れ去られた道だよ

シルスが空を見上げると、まだ翼竜が旋回していた。


「あの翼竜、付いてくる気だ、仕方ないね」


エメラルドグリーンの翡翠の仮面を付けた碧依くんの、獲物を狙う目は哀しげな戦士の目をしていた。


その目を、碧依くんのポケットの中のはなもりが、ポケットにしがみつきながら見上げていた。


はなもりは、惚れてる?


碧依くんが放った威嚇の鏑矢が、鳥のように鳴きながら、上空の翼竜に向かって飛んで行った。


鏑矢は翼竜に届く事はなかったが、翼竜は大してお腹が空いていなかったのか、あきらめて遠くへ飛んで行った。


「大丈夫ですよ、戦闘力だけみたら、俺の方が数倍上ですから、さあ行ましょう」

エメラルドグリーンの翡翠の仮面を付けた碧依は、自信に満ちた声で言った。


仮面も取れない人見知りの激しいへタレではあるのだが。


碧依くんの指し示す方角に、石畳の道が伸びていた。

馬の蹄が、良い音を立てながら、石畳を歩き始めた。

しかし、古い石畳はかなり草に覆われ、整備されていないようだった。


「これ、だいぶ使われてないみたい」

「式神が必要になる事態が、何百年もなかったからね。忘れ去られた道だよ」


「碧依くんは姫様の式神な訳でしょう」

「うん」

「って事は、碧依くんも元々魄の状態で、姫様に捕まったの?」

「そうなるけど、良く覚えてないんだ。だって魄って、基本アホだからね」


シルスとはなもりは、碧依の目を見た。

目はそうとう知的な印象を受ける。

それは姫さまの雰囲気を受け継いでいるのかも知れない。


「でもどうやって、魄の状態の式神を捕まえるの?」

「姫さまが言うには、場合によるって、力ずくの場合とか、手なずける場合とか、ちなみの俺の場合は、姫さまに告られた」


「告られた!」

はなもりは叫んだ。


「いきなり近くに来て『あなた好き、一緒に来て』って」

あの姫さまの美しさだからこそ、成立する言葉だ。


「それだけ?」

はなもりは聞いた。


「だってあの可愛さだぜ。誰だってついて行くだろう」


「解るけども」

はなもりは拗ねた。


確かに姫さまは可愛い。

超絶可愛い。


この接続式神自体は美しいけど、シルス自身が姫さまと同じように言って、ついてきてくれるかと言うと自信がない。




つづく


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