2話 この世界は科学文明を拒絶している。


ふと空を見上げると、翼竜の様な生き物が飛んでいた。


「思惟ちゃん、気を付けてね、接続式神はこの世界の食物連鎖の底辺に近いから」

碧依くんは言った。


「はなもりが、碧依くんのポケットに入っているのも、そう言う事?」

「思惟かっか、そんな事ないです~」


はなもりは、すっごく可愛い声では言ったけども・・・多分。

一応、腰には刀があるけど、姫さまの予想外の弱さを思い出すと、不安がよぎる。


「思惟ちゃんそんなに怯えなくても、大丈夫ですよ。

その馬は王国一の駿馬です。きっと逃げきれますよ」


「そうなんだ」

その王国一の駿馬から、王国一ゆえの自信が伝わってきた。


シルスはちょっと安心すると、王国1の駿馬上で『思惟』と言う呼び方を一考した。

【思惟】間違いではないが、今となっては【思惟】とはオリジナルを意味する呼び方。12人になってからは、自分を【シルス】と認識していた。


「あのわたしの呼び方なんですけど」

「思惟かっかの?」

「うんその【思惟】って言うのはね、わたしたちにとってオリジナルを意味するの」


「ほお」

碧依くんが興味深そうに相槌を打ったが、視線は美少女な接続式神の胸元を見ていた。


こいつ!

式神同士の恋愛がどうなっているのかは不明だが、明らかの恋する男子の目だ。

まあ良い。


「12人と一緒にいる時、わたしたちはそれぞれに名前を付けたの、それでわたし個人の名前が【シルス】って言うの」

「しるす?」

「日記を着けるのが好きだから、記すの【シルス】」

「ええええ日記着けるのが好きなんですか!わたしは絶対無理なタイプです~」

「だからはなもりも碧依くんも、シルスって呼んでほしいの」


「ぜんぜん問題ないっすよ!」

と良い返事をする碧依くん。


会話的には、シルスと碧依くんが話している様に思うかも知れないが、絵的には式神の碧依くんと、美少女の接続式神が話している絵だ。


そしてこの美少女な接続式神の姿形が、思惟たちよりずっと色っぽいのだ!

「なんか複雑・・・」



空を飛んでいる翼竜が、すぐ上で旋回を始めた。


碧依くんは、接続式神の美少女を見つめ、

「あ~弱そうな獲物を見つけた見たいです。急ぎましょう」


碧依くんは小さな馬車の御者台に座った。

おとぎの国に出て来そうなお洒落で可愛らしい馬車だ。

馬もシルスの乗る馬より一回り大きい。


「車とかはないの?」

シルスの問いに、碧依は

「この世界は、地上とは世界を構成する要素が違うんです。

火薬は爆発しないし、エンジンも使えない。

この世界は科学文明を拒絶している。だからこそはく単体で存在しうる」


「ふーん」


そう言えば、空気は澄んでいる。澄み過ぎてると言っても良い。

浅い呼吸でも肺に酸素が満ちていく感じがする。


多分、それだけではないのだろう。

身体の細胞が、この環境になれていないので、身体中が緊張していた。


「いずれなれますよ」

碧依くんは言った。


魄単体で存在しうる世界。

通常、生き物は魂が宿らないと、生きているとは言えない。


「そんな世界だから、とうぜん魑魅魍魎がたくさんですよ」

「ええええええええええ」


怯えるシルスとはなもりを、楽しそうに碧依くんは見つめた。


ただ肺を満たす大量の澄んだ空気が、それにリアリティを持たせた。


その魄と、思惟の魂の分霊を統合させて、式神を生成する事が、この旅の目的だ。

シルスは、美少女な接続式神の体内で、この世界を見渡し、

「これから、どこに向かうの?」

「ずーと行った所に、物凄く長い洞窟があるんです。

その向こう側にある、魑魅魍魎が跋扈する世界こそが我々の目的地です」



つづく

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