4章 シルスの冒険

1話 境界を超えると言うのは、こう言う事なんだね 。


石で出来た棺桶の様な箱の中は、微かに薬草の匂いがした。

そして石板の重い蓋が閉められていく。


裸族の思惟と汎都・舞夢が、心配そうに見つめていた。


愛おしいわたしの分身ちゃんたち・・・

視線を交えると、心が優しさに満ちていく気がした。


ありがと。


シルスは、蓋が完全に閉められる寸前の、僅かな外の光が消えるのを確認した。

蓋が閉まると、無音になって、自分の体が闇に飲み込まれていく。


重力がいつもとは違う?


暗い闇と重い重力が、四方から圧力をかけてくる。

薬草の匂いが、体内に充満すると、足が痺れて動かなくなった。


その痺れは、全身に広がった。


自分の体が、自分の物じゃなくなっていく。

体が死んでいくような感覚。


その感覚に、本当に死んでしまうんじゃないかと、シルスは恐怖したが、もう成す術は何もなかった。


石室の重い扉は閉められ、そこには何の光も存在しなかった。


完全な密室なのにも関わらず、どこからか風が吹いていた。

背中に有るはずの底石を感じなくなった。

まるで、闇の中を浮いているみたいだった。


・・・もう、忘れ物はないかい?


誰の声だろう。忘れ物?


・・・あちらの世界に忘れ物はないかい?


あちらの世界に?カメラ。日記帳。愛しいわたしの分身たち。


・・・それは、大事な物?


大事。


・・・取りに戻るかい?


戻りたい。


・・・了解。


ちょっと待って!


・・・はい。


どうしよう・・・でも、


・・・?


取りに戻らない。あちらにもう忘れ物はない。


・・・了解。


言ってしまった。こんな事を言わなければ、

みんなの元に戻れたのに・・・


身体が凄い勢いで浄化されていく。

それは、非人道的なジェットバスに入っている気分だ。


「こんな事、人にはしてはいけない所業。

でも、境目、境界を超えると言うのは、こう言う事なんだね」


シルスは思った。




つづく


読んでくれて、ありがと(≧∀≦)

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