8話 知りたくない事まで知ってしまうのは辛い・・・
夕立の雨の中、チーム・北の島の璃琥(りく)が、空手の演武をしていた。
その雨に濡れた姿は、強く美しく誇らしかった。
「でも雨の中しなくても良いのに」
チーム・西の島の思惟Ωは、旧館の窓からじっと眺めていると、
『強くなりたい、みんなのために』
璃琥(りく)の意思が、思惟Ωの意識に入ってきた。
さらに璃琥が拳を強く握った感触も、思惟Ωの意識に入ってきた。
優しさを含んだ強さは、とても頼もしかった。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
エレベーターを操作する旅館の娘の後姿を、中野綾香は観察した。
着物が身体の緩やかなラインを、優しく包んでいた。
着物に愛された着物が良く似合う体形らしく、見る者に安心感を与えた。
エレベーターのドアが開くと、旅館の娘は軽く会釈をした。
待つ宵(よい)の間は、五階に在った。
五階フロアは、静まり返っていた。
このフロアの客は中野綾香1人らしい。
街の外からの客が居なくなれば、そうなるのも仕方がない。
清潔で雰囲気が良い旅館なだけに、誰も居ないのは勿体ないような気がする。
しかし、このフロアを独り占め状態は気分が良い。
フロアを全裸で走り回っても、誰にも見られないだろう。
廊下を少し歩くと、屋上に上がる階段が見えた。
「屋上に上がれますか?」
旅館の娘に聞いた。
「夏場だとビヤガーデンをやってるのですが・・・」
「・・・」
「はい」
旅館の娘は、柔らかな表情と、ちょっとだけ困った表情を浮かべた。
もうちょっと押せば、何とか成りそうな雰囲気だったが、
ごり押しして、彼女を困らせるのも気が引けた。
・・・・と思わせる旅館の娘の表情。
それが意図して作られてものなのか、天然物なのかは解らなかった。
羨ましい才能だ。
街の上空で繰り広げられる防空戦の様子を、見たかったが、ここである必要はないか。
外では夕立が止んだようだ。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
新館屋上のビヤガーデンへは、非常階段で行けば、旅館の人と会わなくても行ける。
チーム・西の島の思惟Ωが、その螺旋階段を上って行くと、チーム・北の島の璃琥(りく)が、汗まみれで駆け下りて来た。
思惟Ωは、璃琥とハイタッチをしてすれ違った。
特別会話をする必要性を感じなかった。
思惟Ωは、璃琥が何を感じ考えているかを、自分の事の様に感じる事が出来た。
璃琥だけじゃない。
思惟全員の感じた事は、すべて思惟Ωの思考回路に流れ込んで来た。
この事は、誰にも言っていない。
同じ思惟とは言え、自分の感じた事が筒抜けになるのは、気持ちの良いものではないし。
「しかし・・・疲れる」
1人分の時間で、12人分の思考を処理するのは、非情に疲れる。
「知りたくない事まで知ってしまうのは辛い・・・」
季節外れの屋上ビアガーデンには、誰も居なかった。
思惟Ωは、この誰も居ない季節はずれな感じが好きだった。
夏場のシーズンには、思惟も駆り出されて、息を着く暇がないほど働いた。
その忙しさは、通常の思考を簡単に吹き飛ばした。
夏の暑さと人々の喧騒と、次から次へと入るオーダーはスタッフを、ある種の熱狂の中に突き落とした。
そんな夏の熱狂を楽しめたのは、さっき汗まみれで走り込んでいた璃琥的な要素が、
あったからからかも知れない。
今も思惟Ωの思考回路には、汗まみれで走り込む璃琥の想いが、流れ込んでいた。
「熱い苦しい」
身体を鍛える事への熱狂は、冷めた思惟Ωには、熱すぎた。
「さて」
このビヤガーデンの下には、あの街の外から来た客がいる待つ宵の間がある。
あの女は敵か味方か?
つづく
いつも読んで頂き、ありがとうございます(⁎˃ᴗ˂⁎)
思惟たちヽ(*'0'*)ツ
思惟オリジナル(15) 旅館の女将修行中
【チーム・北の島】
α・・・ちょっとアホっぽい。弄られ少女。
β・・・ 賢者な少女。
璃琥(りく)・・・高跳び少女。美少女戦士。
思惟・女将・・・大人びた少女。
【チーム・南の島】
シルス・ ・・ デジカメ少女。日記を記す。
裸族・・・ コテカを装着した少女。
パンちゃん・・・ シルスと裸族が大好きな少女。
マイちゃん・ ・・キャラはパンちゃんと同じ。
【チーム・西の島】
ちーず・・・兄の狼図を嫁にしたい少女。
φ・・・ 初恋の少年を忘れられない。人形使い。
Ψ・・・ 惣菜買い出し担当。お金の管理を担当。
Ω・・・地下での記憶を持つ。全思惟の記憶を知る。
ν ・・・?
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