12話 私、12人に増えちゃいましたーイエーイ♪

「私、12人に増えちゃいましたーイエーイ♪」


と、言った場合の世間の反応を思惟βは、ベットで毛布に包まったまま、想像していた。


「なんでやねん!」と笑いながらツッコむ人がいたら、そいつはかなりの大物だ。


この旅館は異世界じゃないし、勇者も魔法使いもいない。

至って平凡な温泉旅館。現実は現実。


そんな事を想像している内に、 思惟αが、物置部屋から出て来た。


愛おしい。

なぜあの思惟だけを、愛おしく思えるのか?


この愛おしさで、

「私、12人に増えちゃいましたーイエーイ♪」

と、言ったら、世間は温かく迎えてくれるのではないか?

そんな事はないか(苦笑)


「南の島の子たちが居なくなったみたい・・・」

「うん、聞こえてた」


思惟βは、毛布に包まったまま答えた。そして、


「思惟(α)ちゃん、あのね・・・」

「何、思惟(β)ちゃん」

「今、私たちが求める事って何だと思う?」

「ん?」

「私たちは、元の生活に戻る事を目指している。

要するに、1人の思惟に戻る事。

分身の術なのかクローン技術なのか、式神の様な技術なのかは解らない。

どれにしたって、12人の状態で、ここでずっと生活することは無理」


思惟βは、思惟αを引き寄せ、毛布に包みこむと、耳元で囁いた。


「誰かが居なくなったて事は、ある意味良い事」

「!」


αが怒りの声を出す前に、βはαの口を塞いだ。そして、

「12人でここにいる事は無理、でも2人ぐらいなら可能でしょう。

旧館にはほとんど誰も来ないし、わたしはあなたの事が好き

・・・だから・・・一緒に」


αは口を塞がれながらも、言った。


「そんな裏切りは嫌!」

想定内の反応。思惟αは特に優しいから。

「西の娘や、南の娘の事は良く解らないけど、多分12人の中であなたが一番出来が悪い。そんな15歳のあなたが、身分を偽って、誰も知らない街で生きていけると思う?少なくとも、女将や璃琥くんなら、逞しく生きていける」

「みんなを追い出すって事!?」


思惟αの、予想以上の怒りに満ちた目に思惟βは焦った。

女将と璃琥が、物置部屋から出てくる気配を感じたので、思惟αの口びるに人差し指を立てて、口止めした。


思惟αの目は、涙で潤んでいた。

もう一人の自分が泣きそうになっている。


鏡の中のもう一人の自分が、泣きそうになっているみたい・・・


悲しみと怒りがごちゃまぜになった感情が、思惟βの心に渦巻いた。


泣いたからと言って状況は変わらないのだが、思惟βは、可能性の1つとして、12人の思惟が、存在し続けるられる案を考えてみることにした。



つづく


いつも読んで頂き、ありがとうございます(⁎˃ᴗ˂⁎)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る