11話 誰か来て!


「誰か来て!」


聞きなれない人の声が、女将の間の物置部屋からする?


まだ頭が眠っている思惟αが、そう思ったのも仕方がない。


23時に起きる予定の【北の島】の思惟αが、その声を聞いたのは、22時30分ぐらいだったと思う。


自分の声を聞きなれている訳ではないので、それが自分の声だとは気付かなかった。


「誰か来て!」


2度目のその声に、思惟αは色々な記憶を繋げた。


「あれっ?これ、やばいんじゃない?」と、睡魔の中で思惟αが思ったときには、璃琥(りく)が、オプションで強力なバネが入っているんじゃないかと思うほどの、俊敏さで飛び起き、物置小屋に急行していた。


璃琥の浴衣は、マントの様に舞い、戦場を駆けぬける戦士の様に勇ましかった。

璃琥の赤いパンツが凛々しさを演出した。


思惟αも、慌てて璃琥の後に続いた。


橙色の20ワットの照明に照らされた物置部屋には、さっきまで、誰かがいた気配が残っていた。それを示すかのように、浴衣の帯が一つだけ残されていた。


「誰も居ない」


璃琥の浴衣は肌蹴、パンツが丸見えな上に、ノーブラだった。


お風呂で見慣れたおっぱいを見ながら、思惟αは言った。

「西の島さんたちは、食料の調達に行ってる時間だから、あの声は、南の島さんたちかな?」

「だね」

「どうしたの?」

女将が、顔にパックしたままの状態で、物置部屋に入ってきた。

継母がしているのと同じパックだ。

かなり高い奴!


12人になってまだ一晩しか経ってないのに、女将は、継母と親密になって、高価なパックを貰ったとでも言うの?


切羽詰まった表情の璃琥とは対照的に、女将は、落ち着いていた。


「『誰か来て!』って、声がしたから来てみたら、誰も」


璃琥は、落ちている浴衣の帯の匂いを嗅いだ。


「これは、デジカメを持ってる子の物だ。微かにデジカメの匂いがする。」

「マジかよ」って目で、αと女将は、璃琥を見た。


璃琥は解って当然な顔をしていたから、マジなんだろう。


これ以上は触れずにおこう。


3人の思惟は、エレベーターがあるであろう場所を見た。

開けることが出来なかったエレベーターの扉。

その存在は、3人の思惟の心に重くのしかかった。


「みんなそんな顔しないの、きっと大丈夫だって」


女将の、優しく落ち着いた声で、3人の思惟たちの心は少しだけ軽くなった。


物置部屋から女将の間の外に出るには、【北の島】が寝ている居間を通らないと出れない。

ただ2階だから、屋根伝いに降りられない事はない。子どもの頃は良く屋根伝いに降りていた。


「あの子たち、勝手にコンビニでも行ったんじゃない。

そう言えば、あの賢い子は?」


女将は、思惟αに聞いた。賢い子?多分βの事だ。


顔だけでは区別できないはずなのに、思惟αが、思惟βじゃない事を見抜いたって事は、思惟αが、賢くない顔をしていたって事なのだろうか?


そんな事をふと思った思惟αは、

「まだ寝てるのかも、起こしてくる」


居間に戻る途中、姿見でチラッと自分を確認した。


「まあ、賢くは見えないよね」思惟αは自覚した。



つづく 


いつも読んで頂き、ありがとうございます(⁎˃ᴗ˂⁎)

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