8話 それはちょっと待って、ね、ね、ね。


妖精の出入り口と思われる円形の穴は、床から50センチ程の高さの場所にあった。


「見て、穴の上に鍵穴のカバーみたいなのが着いてる。

もともとは、このカバーで塞がれていたけど、何らかの拍子で開いたままになったのかもしれない」


凛琥(リク)は、再び閉まらないようにカバーを、テープで留め、四つん這いなって、穴の中を覗いた。


「風は来てないみたい。

向こう側は、カバーで塞がれているのかも知れない」


凛琥は、四つん這いから、正座に座りなおした。

思惟αとβと女将は、背後から凛琥の後姿をじっと観察した。


自分の後姿を見る事なんて、中々ない。それも動く自分だ。


3人の思惟は、凛琥をじっと見つめる他の思惟を、「この自惚れ屋のど変態」と牽制し合いながらも、凛琥の後姿から目を離せなかった。


自分が思って以上に、後姿は可愛いと知る事は、大きな収穫だった。

3人の思惟は、秘かに満足した。


「ちょっと壊してみる」

「えっ!?」


3人の思惟が止める間もなく、凛琥は踏み台の椅子を、エレベーターのドアがあった辺りに、叩きつけた。


ドカ!


硬い音が響いた。

「ちょっと夜中だって、お客様が起きてしまうでしょう!」

女将は慌てた。

「硬い・・・例えば普通の壁なら・・こう!」

と凛琥は、別の場所の壁に踏み台を叩きつけた。


ボコ!


簡単に穴が開いてしまった。

「ねっ♪」

「ねっ♪じゃないでしょう!」

凛琥の暴走に、女将のあみちゃんは、ため息を着いた。

凛琥は、道具箱からドリルを取り出した。


「凛琥ちゃん、それはちょっと待って、ね、ね、ね。

せめてお昼になってからでも問題はないでしょう」


女将のあみちゃんの嘆願に、お昼まで待つ事にした。


          ☆  


自らの中にある破壊願望。

思惟が普段生活している時に、そんな願望が表に出る事はない。

思惟は、どちらかと言うと、優しくて善良な女子として生きて来た。

まあ・・生きていると嫌な事もあるし、ムカつく事もある。

それでも、何かを壊したことも無かったし、壊そうと思ったこともない。

 

しかし、今、凛琥は、妖精探索の為とは言え、躊躇なく壁を破壊した。

それはただの壁ではない、お祖母ちゃんの思い出や、旅館の歴史が詰まった旧館の壁を躊躇なく壊したのだ。

裸族の子にしろ、璃琥にしろ、思惟が普段持っている理性の箍が外れている気がする。

と、思惟αは思った。


でもあの子たちを見ているのは、気持ちが良いのも事実だった。



つづく



いつも読んで頂き、ありがとうございます(⁎˃ᴗ˂⁎)

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