第10話   編制業務

 ニルド問題解決のために、ナビリア星域に中央より増援部隊が送られることが決定した。


 これにより連邦の加盟国、ニルド公国解放に向けての準備が進むこととなる。


 この増援を受けて、編成未了であった第54戦隊も、正規の編成に昇格することとなった。


 カルロとロンバッハは新部隊編成のため、連邦の中心部であるイスタファン星域に出張することとなった。




 「私たちだけで、良かったのかしら」


 イスタファンへ向かう途中、定期船の中でロンバッハが問いかける。


 「理想は、コンコルディアとムーアで行くべきだかな。ナビリアから戦力を抜けないのも理解できる。イスタファンは遠い」


 「しかし。イスタファンで新部隊の練成をするのでしょう。新しく配属される要員は、艦と乗組員が揃っているのに、我々だけ単独で上手くいくのかしら」


 ナビリアの司令部は、防諜的観点から、ナビリアに増援を送り込んでから、訓練するのではなく、他の星域で編成と訓練の完了した、即応部隊を一気にナビリアに集結させ、タシケントに察知される前に行動したかった。そのため54戦隊のような中途半端な編成の部隊は、艦と要員を分けるなどの変則的な動きを強いられた。残されたコンコルディアとムーアはナビリアで、副長たちの監督下で練成することになっていた。


 「幸い、損害が出ていないから、練度には問題ないさ。新しい要員の足を引っ張ることは無いだろう」


 「そうね」


 「向うに着いたら、一つお願いがあるのだが」


 「なにかしら」


 ロンバッハの碧い瞳が光る。


 「正式な任官はまだだが、戦隊指揮官として編成業務を行なう。お前には、そのサポートをしてほしいんだ」


 カルロの言葉にロンバッハは不思議そうに首を傾げる。


 「サポート?いつも、しているでしょ。他に何を」


 「いゃ。まぁ。そうなんですけど」 


 言いよどむカルロに得心が行ったのか、急に笑い出した。


 「わかった。あなたは私に副官の真似事をしてほしいわけね」


 「ありていに言えばそうです。副長はナビリアに置いてきたし、編成業務を考えると頭が痛くなる」


 カルロの自白に、しばらく笑い続けた。


 「いいわよ。面白そうだし」


 「お願いできるか」


 「了解いたしました。少佐殿」


 ロンバッハは急に背筋を伸ばして笑顔のまま敬礼して見せた。その姿があまりに愛らしくてカルロは余計に恥ずかしくなる。


 「いや。まだしなくていい。と言うか止めてくれ」


 「それでは、交換条件に、イスタファンに着くまでは、私の副官の真似事でもして貰おうかしら」


 「それぐらいなら」


 「そう。では、お腹がすいたわ。何か買ってきて」


 さらっと、酷いことを言い出した。


 「お前。それは、パシリだろう。まさか、副長にそんなこと言ってないだろうな」


 「言うわけないでしょ。早く行きなさい」


 「了解」


 「了解いたしました」


 腰を上げるカルロに訂正を求める。


 「了解いたしました。少佐殿」


 カルロは敬礼して見せた。


 「私の副官は可愛くないわね」


 そう言って、また笑う。銀の髪が揺れた。




 二人は船を乗り継いで、一ヶ月ほど掛けて、イスタファン星域にあるエルト・アラン共和国の中心惑星ポントスに到着した。流石に大国の首都だけあって、普段、住んでいるクースと違い、ポントスは惑星全体が都市の灯りで光っていた。


 「ポントスには、何人ぐらい住んでいたっけ」


 軌道衛星上には無数のステーションが設置され、大小様々な船舶が行き来している。


 「100億人ぐらいだったと思うけど、いつ見ても凄い光景ね」


 多くの人々が行きかう機動エレベーターの巨大なステーションで、田舎暮らしの二人は立ち尽くす。ちなみにクースの人口は一千万人に届かない。それでもナビリアでは人口の多い惑星だ。


 「ここなら、エスペラント級も余っているんだろうな。ウチはパワーパックの補充も、ままならないのに」


 「それを分けてもらいに来たのでしょ。行くわよ」


 ロンバッハが、すたすたと歩き出す。


 「おいおい。どこへ行くんだ。エレベーターはこっちだぞ」


 カルロは端末で確認する。


 「そう。では任せます」


 「空では迷わないのに、陸おかでは相変わらず方向音痴だな」


 ロンバッハは拗ねた様に顔を逸らした。




 目的の連邦軍、編成局本部は都市部から少し離れた海辺にある。


 到着の報告と共にアクセスキーを渡され、空いていたオフィスに通された。


 「こちらをご自由にお使いください」


 それだけを伝えると兵卒は出て行った。


 「さて、やりますか」


 カルロはロンバッハは句の字型に配置された机で、受け取った資料を広げた。


 今回、54戦隊に配属される突撃艦は2隻、エスペラント級突撃艦ラケッチとイントルーダであった。


 「ラケッチの艦長、ナイジェル・カト カル なんと発音するんだ」


 「ナイジェル・カトゥルーリャでしょうね。違っていたら御免なさい」


 「それと、イントルーダの艦長がアルトリア・ド・エルベリウス。おい。この人、第5艦隊所属だぞ」


 「本当に?親衛艦隊所属の人なんて、よく回してくれたわね」


 カルロの示したデータをロンバッハは覗き込む。


 連邦には中央に駐屯し、各方面に派遣される、1~10までの親衛艦隊と呼ばれる精鋭艦隊がある。文字通りのエリート集団だ。


 ちなみにカルロ達は、各軍管区に所属する方面軍の指揮下にあった。


 「しかし。随分時代がかった名前だな。いいとこの娘こか」


 「そうね。どこかの貴族制国家の出身なのかしら。でも、出身はワロニアだから違うわね。ワロニアは確か共和制だったはず。」


 新規要員のパーソナルデータを読み込んでいく。明日は彼らと初顔合わせだ。




 「ナイジェル・カトゥルーリャ少佐です」


 「アルトリア・ド・エルベリウス少佐であります」


 二人の士官がカルロに敬礼する


 「カルロ・バルバリーゴ少佐だ。本官が、第54戦隊の指揮を行なう。よろしく」


 「アデレシア・ラ・ロンバッハ少佐です」


 ロンバッハはカルロから一歩下がった副官の位置で敬礼した。


 「それでは、まず。えーカトルリア・・・・申し訳ない」


 「気にしなくても。自分の家名は呼びにくいから、ナイジェルで」


 長身のナイジェル少佐は、気さくな笑顔を向けた。


 「すまない」


 「私もアルトリアでお願いします」


 こちらは、硬い真顔だった。


 「わかった。それでは始めようか」


 これから約二週間で、編成を完了させる。




 編成任務の半分は机の前で行なう。座学、ミーティング、そして事務作業。


 「申請書類の書式が違う。なぜだ。前はこれで通ったぞ」


 カルロは却下された申請書類を見ながら、編成局に連絡する。


 「今年度3月の官報。いや。見てい無いが。第571号通達?ああ。了解した。確認する」 


 「ええ。お願いします。それと、ラケッチのクルーのバイタルデータを至急。そうです」


 通話を終えると、二人は同時にため息を付く。


 「一息入れましょう。お茶を入れるわ」


 「そうしよう。疲れた」


 ロンバッハは立ち上がって、紅茶の準備を始めた。


 「どうだ」


 「駄目ね。私も初めてのことが多いから、手間取るわ」


 「ありがとう。すごく、すごく、助かっています」


 心から、感謝した。


 「どういたしまして。と、言いたいけれど、安請け合いしたと、少し後悔しているわ」


 「俺は、ロンバッハ艦長様に頼んで、大正解だったと、自分を褒めてやりたい」


 カルロとロンバッハの事務作業のスピードは変わらないが、申請書類のリテイクの数はカルロが多かった。


 「一人でやっていたら、終わるころには、ニルドは奪還されている気がする」


 「随分気弱ね。それと、あなた、官報に目を通していないの」


 ここで言う官報とは、軍が出している内部通達の総称である。


 「読むところあるか。大概関係の無い内容ばかりで、面白くもない。軍内部のスキャンダル記事でも載せてくれたら喜んで読むのに」


 そこらへんの情報ツールの様なことを求める。


 「あら。読みようによっては面白いわよ。官報」


 「なんだ。お前も人事欄を読みふけるタイプか」


 出世願望の強い軍人や役人は、誰が昇格したとか降格したとか、配置転換になったとか、その手の情報が大好きだ。ちなみにこの手の役人のことをヒラメと言うらしい。


 「バカなこと言わないで」


 「では、どこが面白いので」


 「例えば、そうね。この間、10ヒトマル式量子反応魚雷の納品に関する、価格の交渉結果が乗っていたわ。」


 「え。魚雷って値段決まってないのか」


 「毎年度、メーカーと価格交渉する見たいね。ちなみに値段は一基」


 「まて、まて、いや。言わなくいい。聞きたくない」


 昔やらかした、魚雷飽和攻撃のことを思い出す。あの時は一回の戦闘で40本近い魚雷の大盤振る舞いをし、補給担当者から、本気の嫌味を言われた。


 「大事な市民の税金よ。知っておいた方がいいんではなくて」


 「知ってる。大体は知ってるから。正確な値段は勘弁してくれ」


 「ほら、以外に面白かったでしょ。官報」


 ティーカップを手にロンバッハが、笑顔で戻ってくる。


 「あなたの、生涯賃金、何回分かしら」


 「お言葉ですが、大なり小なり軍人は皆そうだろうが。お前さんだって、昔・・・・・・・・・・」


 ロンバッハからティーカップを受取ったまま固まる。


 目の前には、アルトリア少佐が立っていた。 


 「ご歓談中のところ失礼いたします。何度がノックいたしましたが、返答はありませんでした。失礼とは存じますが入室いたしました」


 無表情だったが、努力のあとが見れた。


 「いや。これは失礼した。気付かずに申し訳ない」


 編みこんだ金髪が軍帽から覗いていた、思ったより髪の毛長いのか。と、関係ないことを考える。


 カルロの挙動がおかしなことになが、ロンバッハはというと我関せずと、席について紅茶を飲んでいた。




 事務作業が一段落すると、いよいよ練成に移る。


 シュミレーターでの訓練の後に、実際の突撃艦を使用した訓練が行なわれるが、乗艦が手元に無い、カルロとロンバッハは、それぞれラケッチとイントルーダーに乗り込んで、補充要員の動きを観察することに終始した。


 「では、ラケッチの動きから見ていこう」


 訓練後、オフィスで、ブリーフィングを行なう。


 「ナイジェル艦長の機動は大胆だな。指揮にも自信が窺うかがえる」


 オフィス全体に訓練した宇宙空間が再現され、ラケッチの機動が表示される。


 「特に加速の指示が的確だった」


 「ありがとう」


 ナイジェル艦長は笑顔でうなずく。


 カルロがロンバッハに合図を送る。


 オフィスには続いてイントルーダの機動が表示された。


 「では、イントルーダについて。全てにおいて決断が早いですね。難しい局面でも、躊躇無く次の行動が出来ています。特に目標への切り込みの早さには、目を見張るものがあります」


 「光栄です」 


 アルトリア艦長も表情は変えなかったが、瞳には強いプライドが宿っていた。


 その後、幾つかの解説と確認を終えると、本日の訓練は終了となり。解散した。




 カルロは一人オフィスに残り、訓練報告書を仕上げる。


 顔を上げると、窓には夕焼けが映っていた。


 ぼんやりと、それを眺めていると、ドアがノックされる。


 返事を返す前にドアが開き、ロンバッハが入ってきた。


 「終わった」


 「ああ。後は送るだけだ」


 カルロは端末を操作して、仕事を終えた。


 「お疲れ様」


 「いい夕日だ」


 「そうね」


 ロンバッハも外を眺める。


 「少し。散歩でもしないか」


 カルロは伸びをしてから立ち上がった。




 二人は編成局本部の人気の無い海岸線を、しばらく無言で歩いた。


 潮騒と、海に沈む夕日が二人を包む。ロンバッハの銀髪が風になびいて光輝いた。


 「なあ」


 カルロが声を掛ける。


 「ええ」


 隣を歩くロンバッハが答える。


 「どうしよう」


 「どうするの」


 二人の発言は同時だった。


 「やばいぞ。ナイジェル少佐。部下の報告は半分ぐらいしか聞いていない。操艦も適当。まるで野生の感で動かしてるみたいだ。」


 「正直。失望したわ。栄えある第5艦隊所属だって言うから、凄く期待していたのに、ただの突撃バカよ。あの娘。私ならカウンターで3回は撃沈できる」


 「変に自信があるから、注意しても、聞き流すタイプだ。戦隊行動したら、コンコルディアより先に動きそうだ」


 「プライドだけは、一人前よ。自分は正しいと思い込んでるから、自分と違う意見の人間は間違っていると発想しているわ」


 「一人で飛び出して、孤立して、勝手に撃沈されかねない」


 「真っ先に突っ込んで、華々しく討ち死にするわよ」


 二人はしばらく、不満をぶちまけて、終わるころには息が切れていた。


 流石にこの内容は、本人たちには言えない。


 疲れてカルロは防波堤に座り込む。ロンバッハも隣に腰掛けた。


 「世界はこんなに美しいのに」


 カルロは沈む夕日に向かってつぷやく。


 「現実はとても残酷ね」


 ロンバッハの碧い瞳も虚ろに光っていた。


 「これって。何かのパロディだったか」


 「知らないわよ」


 「どうしたものか、ニルドが奪還出来たとしても、また俺とお前だけになったら意味ないぞ」


 ロンバッハの方を向いて言う。


 「私たちの生き死には、避けられない運命もあるけれど、その可能性は高いでしょうね」


 タシケント軍は甘くない。弛緩した動きを見せれば付け込まれる。


 「各艦隊や方面軍によって、流儀とかやり方があるのは理解できるが、ナビリアであれをやられたらフォーローできるか自信が無いな。どうしたら、反感もたれず、理解してもらえる。そうだ。シュミレーターで、ボコボコに撃沈してみせるというのは」


 反感を持たれそうな事を言い出す。


 「それも一つの手段でしょうけど、時間的には厳しいでしょうね。一回や二回吹飛ばしたところで、どれだけ効果があるか。後、あれを流儀と呼んで良いのか疑問があるわね」


 そこには言及せずに答える。


 ぶつぶつ言いながら、頭を抱えるカルロを見て、ロンバッハは微笑んだ。


 「まぁ。あなたが、問題を認識してくれていることが判って。よかったわ」


 そう言ってロンバッハは立ち上がる。


 「食事にしましょう。今日はもう終わり」


 「切り替えが早いな。確かに腹が減った。ビールが飲みたい」


 カルロも立ち上がる。夕日は完全に沈んでいた。




 カルロは短期滞在の士官用宿舎で、ロンバッハと夕食を取り。シャワーを済ます。


 涼みもかねてラフな格好で、海の見える展望の良いベランダに出た。


 「星がほとんど見えんな」


 誰ともなしに呟つぶやく。


 大都市に近い編成局の辺りでは、夜でも山際が光っていた。


 「そうですね」


 すぐ近くで返事があった。


 視線をやると、髪を下ろしたアルトリア少佐が、同じように涼んでいた。


 「これから行く、ナビリアはどこも田舎だから、星は綺麗に見える」


 「そうですか。小官の故郷も田舎でしたから星は綺麗でした」


 「確かワロニア共和国出身だったか」


 「そうです。ワロニアのヨークという、人の少ない星で育ちました」


 「なぜ。軍隊に。ああ。別に信条調査ではなく、興味本位。いやいや、まってまって」


 考え込むカルロを見て僅かに表情が柔らかくなった。


 「父が軍人でした。駆逐艦乗りだったそうです。小さいころに戦死してしまいましたが。」


 「すまない。無神経なことを聞きました」


 姿勢を改めて、謝罪しようとするのを手で制された。


 「いいのです。小官も父がどのような景色を見ていたのか、知りたかっただけです。バルバリーゴ艦長はどうして軍人に」


 「生活のためだよ。ウチはひい爺さんの代からの軍人一家だったが、爺さんも親父も金にだらしが無くてな。私の代ではすっからかんに、なっちまっていた。それで、学費が無料で生活費まで出る士官学校に入ったのさ」 


 「親子4代で連邦軍に奉職されているのですね。すごいです」


 「ははっ。ありがとう」


 手すりに背中を預ける。


 「アルトリア艦長。突撃艦をどう思う」


 「どうとは。仰ることが判りません」


 「役割とか、有効性。いや違うな。貴官にとって、どのような存在か」


 「小官にとっての突撃艦でありますか」


 アルトリアはしばらく考える。


 「我が軍が勝利するための尖兵かと。恐れず怯まず突き進めば、おのずと勝利は付いてきます」


 「貴官が犠牲になっても、貴官のあけた穴から、味方が勝利を掴んでくれると」


 「そうですね。そう出来ればいいと考えます」


 「確かにそれが突撃艦乗りの魂だな」


 「はい」


 「だがな。第54戦隊では生き残ることを最優先にしたい」


 「生き残ることですか」


 「どんなに間抜けでも、無様でも、生きて帰ることが大事だ。勝利ではなく、生き残るために突撃する。貴官の生き様に反するかも知れんな」


 「そんなことは、小官も死にたくはありません」


 「そうか。ならいいんだ。おやすみ」


 手を振って立ち去った。




 「生き残ることが大事ですか、。甘いというか、思ったより頭が良くないのですね」


 アルトリアの独り言は聞かれていた。


 「そうね。あの男はバカよ」


 驚いて振り返ると、ロンバッハが立っていた。


 「ロンバッハ少佐。すみません」


 「別に謝る事ではないわ。事実ですもの。艦隊の先鋒を務める我々は、どうやっても死ぬときは死ぬわ」


 「はい」


 「でも、同じ危険な状況で、あなたが戦死しても、あの男はそうはならないわ。なぜかわかる」


 ロンバッハの挑戦的な物言いに表情が硬くなる。


 「バルバリーゴ艦長の錬度は小官より上です。シュミレーター訓練でもそれは判ります」


 「違うわ。あなたと、カルロの違いなんて、敵から見たら誤差の範疇よ。少し手ごわい程度」


 碧い瞳がアルトリアを見据える。


 「では。どこに違いが」


 「私が、あの男を死なせないからよ」


 ロンバッハは言い切った。


 「あの男も。決して私を死なせたりしないわ。でも、今のあなたを誰か助けてくれるのかしら。勝利の為に突撃しても誰も後に続かなかったら、ただの犬死でしょうね。部下が可愛そう」


 ロンバッハの剣幕に黙り込む。


 「御免なさい。熱くなってしまったわね」


 「いえ」


 「あなただけではないわ。ナイジェル艦長もしばらくは、私たちの連携には付いてこれないでしょう。それは構わないわ。そう簡単に出来るとは思えないもの。でも、バルバリーゴ艦長の命令に反して勝手な行動をしたら、私が許さない。それだけは覚えておきなさい」


 そのまま立ち去ろうとするが、足を止めた。


 「言い過ぎたわ。御免なさい。バルバリーゴ艦長の動きを、良く見てくれると嬉しいわ。おやすみなさい」


 アルトリア少佐はしばらく立ちすくんだままだった。




 二週間の編成業務は瞬く間に終了した。


 高性能のエスペラント級4隻は、これまでの突撃艦6隻分の戦力として期待されている。一斉射で放たれる量子反応魚雷は、これまでの倍の16射線。まさに飽和雷撃の化身となるだろう。


 「あっと、言う間に終わったな。サポートありがとうございます」


 カルロはロンバッハに頭を下げた。


 「どういたしまして。でも、ここからが本番よ。戦隊指揮お願いするわね」


 「任しておいてくれ」


 「一頭の獅子が率いる羊の群れは、一頭の羊が率いる獅子の群れを駆逐するそうよ。あなたはどんな獅子になるのかしら。羊だったら丸刈りにしてセーターの材料ね。食べたこと無いけど、ジンギスカンとかいう料理もあったわね」


 「それは、勘弁してくれ」


 カルロは両手を挙げた。


 「一頭の獅子が率いる獅子の群れは、どうなるんだろうな」


 「負けないでしょうね。それは」


 「そうだな。負けようが無いな」


 そう言って二人は笑い合うのだった。


 対タシケント戦に向けての戦力は着実に増強されていた。




                                     続く

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