第9話   難民船

 第54戦隊の惑星ニルドに対する威力偵察は、予想外の戦果を挙げた。


 例えるなら、家の裏口から侵入し、冷蔵庫を荒らして、玄関から出て行った野生の熊のように。


 住人であるタシケント軍はなすすべなく見送ったのだった。


 帰還したコンコルディアとムーアの乗組員は、英雄として扱われた。


 作戦は文句無く成功したのだが、それ故に問題が起こった。




 「称えるべきか、苦情を述べるべきか。戦果を出し、無事帰ってきたのだから、やはり称えるべきか」


 ナビリア方面軍、参謀ベッサリオン大佐は書類を決済箱に入れた。


 「申し訳ありません」


 台詞とは裏腹に、悪びれずにカルロは答えた。


 「こうなったら、逆に、ニルドの駐留軍は恐るるに足らず、これを機会に大幅に増援を送り込み、一気にニルド開放。の流れで話を持っていくべきか」


 タシケント軍の勢力を大げさに扱うことにより、中央から増援を引き出すつもりであったが、無人でコントロールされた輸送艦二隻と引き換えに、ニルド最大の軍用エネルギープラントを破壊。バランスシートの点から見ても連邦の圧勝であった。


 「お言葉ですが、今回はたまたま、上手くいっただけで、いえ、何でもありません」


 判っているからそれ以上言うな、と目が語っていた。


 ベッサリオンも威力偵察というより、強襲と言ってよい作戦結果に、ニルド方面の防御が固められることは承知している。今回の戦果で中央が、戦力の出し渋りをすることを恐れた。


 「いや。現場には現場の判断がある。お前たちは良くやってくれた。そもそも、ほどほどに戦えと言うのは虫のいい話しだ」


 自身に言い聞かせるように語る。


 「しばらくは、タシケント軍も燃料に困るでしょう。民生用を転換するにしても限りがあります。ニルドの人々には迷惑を掛けますが」


 「そこは気に病むな。確かに、民生用の燃料を徴収すれば、ただでさえ逼塞しているニルドの経済は動揺する。今回の襲撃に対応してタシケントが増援を送れば、さらに燃料事情は悪化する」


 「後は、ハラスメント攻撃と通商破壊戦で消耗戦に持ち込めば、ニルドを奪還できます」


 「悪くないが、決定打に掛ける」


 カルロの意見にベッサリオンは難色を示した。


 「どうしてです」


 「その方法だと、時間が必要だ。今はトリニダーゴ方面が安定しているが、何らかの動きがあれば増援は引き抜かれる」


 艦隊総司令部や艦政本部から見れば、トリニダーゴ戦線が主戦線であり、ナビリア戦線はあくまで副次的なものだった。


 「仰るとおり。短期決戦ですか」


 「その前提で動くべきだろう。まぁ。後はこちらの仕事だ。お前たちには感状がでる。乗組員にもな」


 感状とは、勲章の一つ下の戦功賞だ。俸給や昇進の評価対象となる、ありがたい賞状だ。


 「ありがとうございます」


 「中央より、増援を引き出せれば、貴様が戦隊指揮官だ。覚悟しておけ」


 カルロは敬礼しベッサリオンの執務室を出た。




 「どうでした」


 オフィスに戻ると、ロンバッハ少佐が声を掛ける。


 「あぁ。我々には、感状が出る」


 「そう。よかったわ。クルーに知らせても」


 「大丈夫だ。それと、内々だが、54戦隊も正規の編成になる。指揮官は本職が務める」


 あえて、無表情に伝える。


 「そう。それはよかったわ。なぜ、そんな顔をしているのかしら」


 緊張が、顔に出ていたらしい。


 「嬉しいなら、それなりの顔をしなさい。それとも、私が不満に思うと、考えているのかしら」


 「いやいや。違いますよ」


 「そんな無駄な心配をするくらいなら。戦隊指揮が出来るかどうか心配しなさい。今までのようにはいかないのよ。2隻体制から4~6隻体制になるのですから。大丈夫?」


 「気にしたこと無いな」


 「むしろ、そこを気にしてほしいわね」


 「了解」


 カルロとロンバッハは打ち合わせを続ける。54戦隊は当分、哨戒と迎撃待機のローテーションに入る。




 「艦長。救難信号確認。ポイント951K211」


 「救難信号ね」


 カルロの反応は鈍かった。


 司令部は、タシケント軍が、威力偵察のお礼参りを行う可能性が上昇したとし、ニルド方面の監視を強化を命じた。コンコルディアとムーアもニルド方面への哨戒任務についていた。


 「また。ポイ捨て。ですかね」


 カルロの反応がうつったのか、ドルフィン中尉も心なしかげんなりした反応だ。


 「信号を受けたからには、放置も出来ない。救援に向かう。ポイント・・・・なんだっけ」 


 「951K211です」


 おバカな質問に、オペレーターが答えてくれる。


 「そうか、そこに向かえ。副長。預ける」


 「アイサー。進路変更684 強速前進。ポイント951K211へ向かう」


 ドルフィン中尉に指揮を任せると、カルロは立ち上がり、コーヒーを入れに行った。


 普段であれは、救難信号には迅速な反応をするのだが、ここ最近はそうでもなかった。


 「十中八九、難民船だろうな」


 カルロは呟く。




 「交信できるか試してみろ」


 コーヒーを手にし艦橋に戻ると、ドルフィン中尉が、信号を送った相手とコンタクトを取ろうとしていた。


 オペレーターが幾度が試してみるが、反応が無い。


 「どうやら、ポイ捨て難民船のようですね」


 ポイ捨て難民船とは、最近、軍の間で広まり始めた用語である。


 ニルド公国がタシケントに占領されて以来、大量の避難民が出たが、恒星間移動は簡単には行かない。船を使いタシケントの監視の目を潜り抜けて、連邦側に逃れる英雄的な事例も無くはないが、大半は海賊が片手間に、密航させるルートを使っていた。その手法の一つに、廃棄寸前の船に大量に人を詰め込み、連邦の哨戒ラインまで曳航し、そこで、放り捨てるというものがあった。


 これなら、少ないコストで、大量の人間を楽に密航させられるのだが、事故が多発した。


 そもそも、廃棄寸前のぼろ船のため、航行能力が乏しく、連邦に発見される前に、輸送船が遭難し、多くの犠牲者が出ることや、哨戒網からもれて、発見が遅れる。などという悲劇が起こった。


 連邦がニルドからの避難民は受け入れていることに乗じて、本来受け入れをしていない、他の惑星からの経済難民までこの手法を使った、密航が流行っていた。


 この手の犯罪は、想像以上に連邦軍を、特に現場の船乗りに精神的無ダメージを与えた。


 人道的見地からも救出しない訳に行かないが、救出すると中央から苦情が来る。特に難民を毛嫌いする一部、加盟国からの反発が凄まじかった。だからといって見過ごせない。


 一応、救出し、ニルドからの避難民であれば、亡命政府に引渡し、ニルド以外の経済難民と思われる人々に関しては、元居た場所に送還する。これが口で言うほど楽ではなかった。


 さらに、善意のNPOが絡むと、話はさらにややこしくなり、責任の押し付け合いが始まる。 


 敵を見つけて、魚雷をぶち込むだけのほうが、気分的には簡単なお仕事だった。


 カルロはこの手の海賊には敵意を持っていた。


 「救難船を確認。モニターに出します」


 映し出されたのは、小型の輸送船であった。


 「よし。無線でコンタクトを試みろ。ムーアは周囲の警戒せよ」


 カルロは命じる。


 この手の難民船には、高出力の恒星間通信の機材は無く、無線と呼ばれる短距離用の通信機が搭載されていることが多かった。


 「アイサー。こちら人類共生統合連邦、ナビリア方面軍所属、突撃艦コンコルディア。付近の船舶。応答願います。繰り返します」


 オペレーターの呼びかけに、凄い勢いで反応があった。


 「こちらは、ニルドからの避難民です。助けてください」


 必死の嘆願が飛び込んできた。 


 「所属と船籍の申告を願います」


 「所属?ニルドからの亡命希望者です。船籍は、船の名前ですか?」


 「船舶名で構いません」


 やや杓子定規なやり取りが繰り広げられる。


 間違いなく、難民船のようだ。


 後は、ルーチーンに従い、最寄のステーションまで曳航するだけだ。




 「ムーアから入電。フィーザに感あり。船舶と思われる。以上です」


 コンコルディアより距離をとって、監視していたムーアから報告が入る。


 「船舶?こちらでは捕捉出来るか」


 「本艦は捕捉しておりません。データ来ました。展開します」


 「確かに、船のようですね」


 チャートに表示された反応は、動力を持った人工物だったが、こちらも先に発見した難民船と同様に、低速のまま惰性で動いているだけだった。


 「また。難民船か」


 ムーアが新しい反応に近づくため離れていった。




 小一時間ほどかけ、船の状態や人数、体調の確認などを行う。いよいよ曳航の準備が完了し、曳航索の取り付け作業中にムーアより連絡が入った。


 「ムーアより入電。映像がきます」


 「展開しろ」


 モニターに映し出された映像は、大型の貨物船。比較的新しい型で、難民船には見えなかった。


 しばらくモニターを睨みつけていたが。


 「曳航中止。臨戦態勢発令。我々も接近する」


 「アイサー。曳航中止。臨戦態勢発令」


 予想外のカルロの命令に緊張が走る。


 コンコルディアはひとまず難民船を放置し、ムーアの後を追った。


 それを見ていた、難民船からは、悲鳴のような通信が入るが、とりあえず我慢してもらうしかない。




 「ムーア。目標に接近します」


 「援護態勢を整えろ。目標をα1と呼称する」


 「何者でしょう」


 ドルフィン中尉の疑問は当然だ。


 「難民船ではなさそうだ。α1より、通信はあるか」


 「現在。確認できません。ムーアの呼びかけにも反応有りません」


 「遭難した船でしょうか。まさか、海賊船」


 「難民船の近くに、何の関係も無く遭難船がいるのは、可能性としては低いな。あの船を投棄したブローカー共の船として対応する」


 「アイサー。しかし、海賊船だとしたら、どうして、こんなと所でぐずぐずしているのでしょう。仕事が済んだのなら、さっさと逃げるのが奴等の流儀でしょうに」


 「そうだな。投棄した後、たまたま機関が故障して漂流中とか」


 「なるほど、海賊船、兼、遭難船と」


 「全く無くはないだろう。用心していくぞ」


 「アイサー」 


 コンコルディアが現場に到着する前に、ムーアのロンバッハ艦長から報告が上がる。


 「当該船より、コンタクトがありました。中立国のロンデニウム船籍、貨物船ダーバンと名乗っています。機関故障のため漂流中とのことです」


 「コンタクトが取れたのか」


 「ええ。通信機の調子が悪く、返信できなかったと」


 「救助を求めているか」


 「いえ。損傷の修復が出来次第、自力での航行が可能とのことです」


 「怪しいな」


 「そうですね。恐らく海賊か難民ビジネスのブローカーでしょう。拘束しますか」


 「そうしたいが難しいな。タシケントのパトロールと出くわすかもしれない中、二隻の船を曳航するのは」


 「確かに。途中で襲撃されれば、面倒ことになりますね」


 「仮にやつらが、海賊だとしてこのままほ放置しておくか」


 「いい訳ないでしょ」


 「そうだな。しかし、我々には二隻も曳航できない」


 「司令部に増援を出して貰いましょう。難民船さえ曳航してくれれば、こちらは何とでも」


 「よし。司令部に増援を要請する。ただこの船を曳航するだけでは、つまらんな」


 カルロは含み笑いをした。


 「また。何か思いついたのかしら」


 「まぁ。聞いてくれ」




 「連邦の船から通信だぜ。これから臨検を行うってよ。どうする」


 「どうするも、こうするも、無いだろう。受け入れだ。お前たち、せいぜい善良な顔をするんだ」


 貨物船ダーバンの船長はごつい腕を組んだまま答えた。


 まったく。とんだ失態だ。いつものようにニルドからの難民を船に詰め込んで、連邦の哨戒ラインに放置したまではよかったが、離れようとした途端に、推進器が故障。たいした速度も出ないまま漂流してしまう羽目に。難民船が救難信号を出す前に沈めようとしたが、向きのコントロールも出来ないまま、四苦八苦している間に救難信号が出てしまった。


 何とか、探知圏外まで出たと思ったが、連邦のフィーザの性能は思っていたより高性能で、探知されてしまう。


 「とんだ、厄日だぜ」


 「連邦のランチが接舷しますぜ」


 「よし。お前ら、俺が相手する。余計なこと言うんじゃねえぞ」


 「わかってますって」


 ダーバンの船長は搭乗口へと向かった。




 「人類共生統合連邦軍、ドルフィン中尉です。あなたが船長ですか」


 「はい。そうです」


 若い軍人が3名の護衛を連れて乗り込んできた。


 「国際軍事法。宇宙航行法、第8条4項に基づいて、貴船を臨検致します。よろしいですね」


 「もちろんです」


 「では、航海日誌と積載リストの提出を求めます」


 「こちらです」


 船長は用意していたデータを中尉に渡した。


 中尉はそれをどこかに転送した。


 「お預かりします。それに、機関に損傷を負っているそうですね。報告のためにも拝見します」


 「判りました。案内します」


 ダーバンの船長は従順な子羊を演じることに余念がなかった。




 「上手くやってくれているかな」


 カルロはそわそわしながら問う。


 「部下を信じなさい」


 一方、ロンバッハは優雅に紅茶を口に含む。


 「自分で行きたかったのだが」


 「立場を考えなさい。あなたが行って、もし人質にでもなれば、混乱するでしょう」


 「そうなんだが、この場合は自分でやったほうが上手くいく気がする」


 「気がするだけでしょ。自己満足は止めて。部下を信頼できないのかしら」


 「そんな訳ないだろう」


 「じゃ。大人しく待っていなさい。積荷のデータは解析したの」


 「やっている最中」


 ロンバッハに窘められ話を変えた。


 「前々から、思っていたのだが、それは私物か」


 「これのこと」


 ロンバッハは花柄のティーカップを上げてみせる。


 「そう。その高そうなやつ」


 「もちろん私物よ。別に高級品というわけではないわ。一客1万ディナールもしなかったわ」


 「一客?それ一つで1万」


 想像以上の値段だった。


 「そうよ。ちなみに5客セットだったわ」


 「そんな。バカ高いので飲んでも味なんて一緒だろうに」


 呆れてしまった。


 「味は変わらないでしょうね。でも、気分は変わるわ。気分が変われば味も変わるでしょ」


 「そう言われると、反論できません」


 カルロの返答にロンバッハが微笑んだ。


 「よし。そろそろかな」


 カルロは時間を確認した。




 「こちら、ドルフィンであります。はい。はい。タシケント軍がですか。了解いたしました。早急に引き上げます。では」


 「どうなさったんです」


 ダーバンの船長はドルフインの態度から、何かが起きたこと期待した。


 「船長。こちらにタシケント軍の艦艇が向かっています。我々はこれより迎撃するので臨検を中断します。あなた方は巻き込まれないように、救難信号を出したほうがよいでしょう。では、失礼します」


 敬礼を一つ残して、そそくさと出て行ってしまった。


 「何が起こったので」


 「おう。今回ばかりはタシケント様様だ。こっちにタシケント軍が向かってるらしい。やつら慌てて逃げ出しやがった」


 「タシケント軍が、やばいんじゃ」


 「ここで、ドンパチしないだろう。奴等が殺しあっている最中に、おさらばするぞ。修理はどれぐらいで出来る」


 「交換パーツさえあれば、2時間ほどで」


 「よし。さっさと連絡して、持って来させろ」


 仲間の船を呼ぶ。


 「あいよ」


 「どうだ。外の様子は」


 「連邦の船は離れていくぜ」


 「救難信号はどうするんで」


 「んなもん、出すわけ無いだろう。一段落して、奴等のどちらかが来たらどうするんだ」


 救難信号は強力な出力で発信するため、一度出してしまうと、信号を切っても目星を付けられてしまう。


 「でも、巻き込まれたらどうするんだ」


 「どうしても駄目って時にだしゃいい」


 「そうだな」


 ダーバンのセンサーには急速に遠ざかる、連邦の船と、熱反応が検知された。本当にやり合っているらしい。




 しばらく息を潜め外の様子を探る。連邦の船は探知圏外へと去り、タシケント軍も現れる様子は無い。


 ダーバンの船長が安心して息を吐いた。


 だが、安心するには早かったらしい、いきなり船大きく揺れた。


 「なんだ。どうした」


 「わからねえ」


 「ぼっとしてないで、調べろ」


 乗組員たちが走り回る。


 「推進装置が、爆発した」


 乗組員の報告に、毛を逆立てる。


 「そんな訳あるか、爆発しようにも推進器は止まってるんだぞ」


 「もしかして、やつらの流れ弾か」


 「そんな。偶然あってたまるか。バカなこと言ってないで、何とかしろ」


 「何とかといっても、これじゃ手の施しようがねえよ」


 「そんなにか」


 頷く乗組員の顔を呆然と見つめた。


 「くそ。引き舟を持ってこさせろ」


 「わ、わかった」


 結局ダーバン号は、曳航するしかなかった。 




 ダーバン号はその後3日ほど、慣性の法則に則って、宇宙を漂った。


 その間、連邦もタシケントもどちらも現れなかった。やはり、救難信号を出さずにいて正解だった。


 今更、奴等が戻ってきたとしても、最初の遭遇点からは、かなり距離を稼いだ。すぐには発見されないだろう。


 「船長。応援が来たぜ」


 「やっとか」


 二隻の中型船が大型の引船を護衛して現れた。


 「今回はついてなかったぜ、ボスになんていい訳すりゃいいんた」


 しかし、これで何とか帰れる。




 「マーカー確認。距離14セパーク」


 「あの船で間違いありませんか」


 「はっ、はい。間違いありません。あの船です」


 「第二班、配置まだか」


 「240で配置完了します」


 「急げ」




 引き舟の曳航索をダーバン号受け取り装着する。


 いよいよ。出発という時に、船の周りに数発の照明弾が打ち込まれた。


 「なんだ。どうした」


 「船長。連邦だ。連邦の奴らが来た」


 船外センサーを扱っていた乗組員が叫ぶ。


 「なんだと。」


 「こちら。人類共生統合連邦軍、ナビリア方面軍所属、巡洋艦イシュタルである。機関を停止せよ。従わない場合、撃沈する。繰り返す」


 近距離、強制回線で通信が無理矢理入ってくる。


 「連邦だと。どうして」


 状況を理解できないうちに、ダーバン号と他3隻は連邦のパトロール艇に取り囲まれる。


 そして、一際大きな軍艦が主砲を、こちらに向けているのだ。これで逃亡を諦めた。




 「一矢報いたかな」


 包囲網の一番外側にコンコルディアはいた。


 「この手の連中は、滅多に検挙できませんからね」


 ドルフィン中尉が同意した。


 「しかし。よかったですね。本当に密航ブローカーで、もし、本当に中立国の船だったら、下手したら軍法会議ですよ」


 「何を言ってる。副長、貴様の報告と積荷リストの解析で、海賊船と認定したのだ。規則の規定内だ。爆発物は外部から簡単に解除できるものだったし、通信の傍受は安全上の緊急措置だ。大体内容は傍受していない」


 必死に、いい訳をまくし立てる。


 「本当に、それで乗り切るつもりだったんですか。確かにあの船長が挙動不審だったのは事実ですけど」


 カルロは、ドルフィン中尉がダーバン号に乗り込んでいる間に、船外作業を命じ、推進器に爆発物と通信アンテナにマーカーを装着させた。これにより、ダーバン号は航行能力を喪失し、その上、外部と交信するたび、その位置を連邦軍に探知された。


 そして、司令部からの応援と共に、ダーバン号を救援に来るであろう非合法連中を、芋づる式の一斉検挙を狙った。


 「一気に4隻も検挙されたんだ。どこの組織か知らんが、当分行動不能だろう」


 カルロは満足そうに頷く。


 「一時的かもしれませんが、よかったですね。しかし、ご自分で逮捕なさりたかったのでは、いいんですかイシュタルに譲って。」


 「構うものか、海賊どもにうんざりしていたのは、我々だけではないしな。他の連中にもおすそ分けだ」


 「そう。ロンバッハ艦長に言われたんですね」


 「なんでも、あの女の言いなりではないぞ」


 カルロが睨んだ。


 「アイサー」


 含み笑いをしたままドルフィンは敬礼して見せた。


 今回の作戦は難民問題に対して、何の解決にはならないが、とりあえず自分の職責内で、やれることはやった。そういう達成感があった。


 これまで感じていた無力感が、薄らいだ作戦となった。




                                       続く 

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