第289話 雷の拳

「……本気ですか?」


 俺は剣に手をかける。ほとばしる電撃が本気以外に何者でもないことを示している。


「お前……腕輪、どうしたんだよ?」


 ライカが冷たい表情でそう訊ねる。


「……アキヤとは決別したと、言ったはずですが?」


「んなことはわかってんだよ。どういうふうに決別したのか、って聞いてんだよ」


「……投げ捨てたんです。地底湖に」


 俺がそう言うと、キョトンとした顔でライカは俺を見る。


「……地底湖?」


「えぇ……この『転移の穴』の中に来る途中にあった地底湖です」


 俺がそう言うと、ライカは少し考え込んだあとで理解したようで首を縦にふる。


「なるほど。あそこか……あそこに……ククッ……アハハハハハハ!」


 と、今度はいきなりライカは笑い出した。俺は唖然としてしまう。


 しばらく笑い続けたあとでライカはなんとか落ち着いたようだった。


「……そうかぁ。アイツ、地底湖の底に沈んでんのかぁ……あぁ……アイツらしい最期だなぁ」


 そう言ってからライカはゆっくりと顔を上げる。


 その両目からは涙が溢れていた。


「なんてこと……してくれたんだよぉ……」


「……は?」


「アイツは……俺がぶっ殺してやりたかったのによぉ……もうぶっ殺せねぇじゃねぇかぁ……」


「ライカ……アナタは――」


 俺がそう言うとと同時に、ライカはの姿が一瞬にして消えた。


「だから……お前が代わりに死んでくれ」


 すぐ近くでライカの声が聞こえる。瞬間移動しした如く、ライカは俺の背後に立っていた。


 そのまま雷撃をまとった一撃の拳が俺に襲いかかる。なんとか俺は剣でそれを受け止める。


「ぐっ……!」


 受け止めたはいいが、そのまま背後に思いっきり弾き飛ばされた。


「……ほぉ。なるほど。アイツの力を失くしたから、どうにかしてその補強をしたらしいな?」


 ……おそらく、ミラの『レディーム』の呪文による修行がなかったら、今の一撃で俺はやられていただろう。


 ただ、受け止められたとはいえ……。


「……クソ」


 俺は自分が手にしている剣を見る。剣はライカの一撃を受け止めたというのに、剣はバチバチと帯電している。


 おまけに剣を握っている手は火傷している。剣を通して電撃が伝わったようである。


「今の一撃はサービスだぜ? お前でもこれでわかったよな? 俺の攻撃は、受け止めちゃダメなんだぜ?」


 ライカが両方の拳を叩き合わせるたびに、激しい電撃が周囲に放たれる。


 おそらく剣に攻撃を当てた瞬間に、ライカは放電している。そうなると、もし、今度攻撃を受けた時に一気に放電されたら――


「……えぇ。わかっています」


 俺はそう言って剣を構える。すると、ライカは嬉しそうな顔をする。


「お前はアキヤと全然違うなぁ。ここで自分が倒れたら仲間がどうなるか、わかっているんだなぁ」


「……えぇ。それくらいわかりますよ」


「はぁ……残念だよ。お前個人は俺としては気に入ってたのに……お前をアキヤの代わりに殺さないと行けないなんてよぉ!」

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