第286話 正しい選択
「……え……ミラ、本気で言っているのですか?」
俺がそう訊ねると、ミラは恥ずかしそうな表情で俺を見る。
「……本気じゃなかったら、こんなこと言い出さないと思うんだけど」
ミラはそう言って俺のことを見る。俺としても……どうすればいいのかわからなかった。
しかし、ミラのこの感じだと嘘や冗談を言っているようには思えないが……。
「ほら、アスト君。早く……」
そう言ってミラは俺のことを急かす。俺は椅子に座ったまま考え込んでいた。
本当に……いいのだろうか? いくら強くなるためとは言って……ミラの気持ちはどうなる?
それに、もしここで一線を越えてしまったら、もはや今まで通りのパーティでいられるのだろうか?
あらゆることが頭の中を駆け巡る。そして、しばらくしてから俺は……ゆっくりと立ち上がった。
ベッドに腰掛けているミラは優しく俺に微笑む。
「うん……それでいいんだ。ウチはアスト君に強くなってもらえばそれで――」
「……いいわけないでしょ!」
俺は思わずミラの肩を掴んで怒ってしまった。ミラはキョトンとした顔で俺のことを見ている。
「……え? あ、アスト君?」
「……確かに強くなるのは必要だと思います。これから魔王を倒すのだから、少しでも強くなった方がいい……でも! 俺は……だからといって、そのためだけにミラと、その……そういうことはしたくないです……!」
俺はなんとか自分の気持ちを振り絞ってそう言った。正直、なんだか自分の気持ちをありのままで言うのはなんとも恥ずかしかった。
しばらくの間無言が続く。俺はミラの顔が見られなかった。
「……フフッ。やっぱりアスト君は変わらないねぇ」
と、ミラの笑い声が聞こえた。俺は顔をあげる。ミラは目の端に微かに涙をためて俺を見ていた。
「……ミラ?」
「まぁ……たぶん断れるだろうなぁって思ってたよ。だけど、ここまで予想通りだとちょっと面白いね」
「え……じゃ、じゃあ、今の話って……嘘なんですか?」
俺がそう言うとミラは立ち上がる。そして、扉の方に近付いていく。背中を向けたままで俺に話を続ける。
「さぁ? どうかな? アスト君はいずれにせよ、それを拒否した。それが間違いかどうかはわからない。でも……ウチ個人としてはその選択は嬉しかったよ」
そう言ってミラは扉を開ける。
「「「うわっ!?」」」
と、三人分の悲鳴が聞こえた。ミラが扉を開けると――
「え……リア、メル……サキまで……なんで?」
ミラが扉を開けると同時に、リアとメル、そして、サキが部屋に倒れ込んできた。
「そりゃあ、皆、アスト君の選択に興味津々だったからでしょ?」
ミラが意地悪くそう言う。
「あ、あはは……すまない、アスト……」
そう言ってリアが苦笑いをしている。メルは不機嫌そうに顔をそむけていて、サキも気まずそうに俺から視線を反らしたのだった。
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