第285話 深夜の密会
その夜。俺はまったく眠くならなかった。もちろん、ミラに言われたことがあるので、皆が寝静まったあとで部屋をでなければいけないからなのだが……それ以上に、普通に目が冴えてしまっていた。
明日からいよいよ魔王の城を目指す旅が始まる。最終的な目標はルミスとマギナ、そして、その背後にいる謎の魔王という存在を倒すことにある。
以前の俺は……倒せるという自信があった。でも、それは俺自身の力ではなく、俺の転生前の勇者アキヤの力があったからこそであった。
しかし、今、もう俺の手元にはアキヤの力はない。ミラのおかげで、それに近い力を出せるようになったものの……果たしてそれで、皆を守ることができるのかは疑問だ。
だから……正直、今俺は不安だったのだ。そのことをずっと考えていると、眠くならないのであった。
しばらくすると、皆、寝静まったようだった。そういえば、ミラはすでに部屋を出ているのだろうか……そのことを考えながら俺は身体を起こす。
そして、皆を起こさないようにしながら、ゆっくりと扉を開けて、部屋の外に出た。
「待ってたよ」
と、背後から声が聞こえてきて、俺は少し驚いてしまう。すでに部屋の外にはミラが立っていた。
「ミラ……いつ部屋から出たんです?」
「ん? 気づかなかった? まぁ、一応音を立てずに歩くのは得意だしね」
ニヤニヤしながら得意げにそう言うミラ。こういうときもまさかそういう技能が役に立つとは思わなかった。
「それで、話ってなんです?」
俺がそう言うとミラは少し黙ったあとで、俺のことを見る。
「……こっちに使っていない部屋があるらしいから、そこで話していいかな?」
「え? まぁ、いいですけど……」
言われるままに俺はミラについていく。俺たちが宿泊している部屋の隣は、たしかに今は誰も泊まっていないようだった。
灯りをつけて、俺とミラは机を挟んで向かい合って座った。
「……さて、単刀直入に言うと……アスト君の強さの話ね」
いきなりミラが切り出してきた話に俺は驚いた。それこそ、俺が今一番気にしていた話だったからである。
「俺の強さ、ですか……」
すると、ミラは少し悲しそうに目を伏せたあとで、俺のことを見る。
「はっきり言うと、君は以前より弱体化しているんだ」
ミラがいきなり告げてきた事実は……かなり残酷なものだった。
しばらく沈黙の後で、俺は苦笑いするしかなかった。
「……厳しい事実ですね」
「そうだね……レディームの魔法を使って修行したとはいえ、以前君が使っていた力……勇者アキヤの力には及ばない。大体以前の半分程度になっていると考えてくれていいよ」
「半分……ですか」
すると、ミラはさらに悲しそうな表情で俺のことを見る。
「以前の力まで戻すにはどうしたらいいか考えたんだけど……短期間でどうにかするまともな方法は、ウチには思いつかなかった……ごめん」
そう言って申し訳無さそうに頭を下げるミラ。むしろ、俺の方がすまない気持ちになってしまう。
「そんな……ミラのせいじゃありませんよ。俺が……不甲斐ないだけですから」
すると、ミラは少し考え込んだあとで、なぜか少し恥ずかしそうにしながら、俺のことを見る。
「……まともな方法は……ないんだけど、特殊な方法はあるんだよね」
「特殊な……方法?」
そう言うと、ミラは立ち上がって、ベッドの方に向かっていく。そして、なぜかベッドの上に腰掛けた。
「……え? ミラ? どうしたんです?」
「……サキュバスが……魔力を人間から吸い取る方法はわかっているよね?」
「え? まぁ……一応は」
「簡単に言ってしまえば、魔力が多ければ多いほど、人間でも魔物でも強くなるわけ。だけど、魔力っていうのは一度に生成できる量は、どんな存在でも決まっているんだよね。だから、どうするかっていえば……他の存在から魔力を吸い取ったり、与えたりすれば、許容量以上の魔力を作ることができるんだ」
「え……それって、つまり……」
俺がそう言うと、ミラはとても恥ずかしそうな視線を向けてくる。
「……魔力を吸い取るのも、与えるのも方法は同じ……相手と物理的に接触するって方法。ここまで言えば意味……わかるよね?」
そこまでミラが言って、俺はようやく、ミラが俺を深夜に呼び出した意味を理解したのであった。
これはこれで……とんでもない状況に立たされてしまったようなのであった。
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