第284話 決戦前夜
そして、祝杯が終わって、俺たちは宿屋に向かっていた。
またしても飲みすぎてしまったリアを背中に背負い、ミラ、メル、サキと向かっていく。
ライカのことは気になるが……また、明日会うのだから、そこまで気にする必要はないだろう。
「いやぁ~……それにしても、いよいよ、って感じだねぇ」
そういったのは、ミラだった。
「いよいよ、ですか……」
「うん。だって、明日には魔王の城に行くんでしょ。あの金髪さんの案内で」
「……そうですね。そうなると……ついに最終決戦、ですか」
俺は思わず最終決戦という言葉をつかってしまったが……果たしてそうであるのかどうか……。
そもそも、未だこの世界に来た理由……行方不明になったアッシュの捜索ができていない。アッシュはどこにいるのか……ライカは何か知っているのだろうか?
「え……最終決戦って……終わり、ってこと?」
そういったのはメルだった。なぜか少し驚いたような顔で俺のことを見ている。
「え……あー……そう、なんですかね……」
「え……ちょ、ちょっと待ちなさいよ! それって、このパーティでの冒険が終わりってことじゃないわよね!?」
メルは慌てた様子で俺を問い詰める。俺はメルの予想外の反応に困惑する。
「え……いや、そういうわけではない……と思いますが……」
「思います、って何よ! 違うでしょ!」
「め、メルさん! 落ち着いて……!」
サキになだめられ、メルがようやく落ち着きを取り戻す。と、見ると、ミラが厳しい視線で俺のことを見ていた。
「ウチも同じことを聞きたかった。当然、終わりじゃないよね?」
「え、えぇ……そう……です」
俺は歯切れの悪い答えをすることしかできなかった。
……正直、魔王の城での戦いがどの程度の戦いになるのか全く想像できない。だが、当然、これまで以上に激しい戦いになることは予想できる。
だから……俺はこれまで以上に持てる方を全て出して戦わければいけないだろう。もちろん、メルやミラ、リア、サキもいる……それでも、俺はどうしても不安だったのだ。
万が一にでもパーティの誰かが……欠けたりしないだろうか、と。
そうなってしまわないためには、俺がなんとかしないと……どうしてもそう思ってしまっていたのだった。
「アスト君」
と、ミラの言葉で俺は我に返った。
「え、えぇ……なんでしょう?」
「君……今すごい、全てを抱え込もうとしていない?」
そう言われて俺は思わずギクッとしてしまった。ミラが呆れ顔で大きくため息をつく。
「それは君のいいところではあるけど、君の悪いところでもあるよね」
「……すいません」
「いいかい? アスト君。確かにこれから先、厳しい戦いになるだろう。いわば今は決戦前夜とでもいう時間だ」
「えぇ……そう思います」
「だけど、ウチらはそこまで深く考えすぎることはない。確かに、こういう大事な決戦のときには、仲間の誰かが欠けたりするかもしれないとか、失敗したりするかも、って思うかもしれない……でも、ウチのパーティは違う」
そう言って、ミラはメルの事を見る。
「ウチにはメンバーを死の淵から呼び戻すことができるヒーラーさんがいるんだ。彼女さえ、守ることができれば、パーティの誰かが欠けることなんてないんだ」
ミラにそう言われてメルは少し恥ずかしそうな表情をする。
「そうだぁ~……私達のパーティは……負け……ない……」
と、いきなり背中からリアの声が聞こえてきた。どうやら、リアも聞いていたらしい。
「ね? だから、あまり深く考えすぎないことだよ」
と、そういったあとで、なぜかミラは俺の耳元で小さく囁いた。
「……皆が寝静まったあと、部屋から出てきて」
俺は思わず真顔になってしまったが、ミラはただ、ニッコリと微笑んだけなのであった。
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