第278話 一刀両断
「えっと……今の話をもう一度確認していいですか」
ようやく泣き止んだゴブリンを前に、サキが優しげな表情でそう言う。
ゴブリンは小さく頷いた。
「この洞窟には『毒の吹き溜まり』という、毒ガスが溜まっている場所があると。基本的には誰も立ち入らないその場所に入っていった魔法使いがいて……その場所をアナタ達が岩で塞いだ、と」
「……お、俺たちは嫌だって言ったんです! でも、あの人は……中に入っていく時に、俺達に責任は何もない。もし、自分に何かあっても自分の責任だ、って……」
「……だそうです」
サキが苦笑いしながらそう言う。メルが大きくため息をつく。
「……あの子は……やることが極端すぎるのよ」
そう言ってメルは俺のことを睨む。
「で……どうするの? アスト」
「あはは……どうする、ですか……選択肢、一つしかないんじゃないですか?」
俺がそう言うとメルは今一度大きくため息をつく。まぁ……俺としてもミラの行動には呆れを通り越して……なんというか、驚愕という感情しかないのだが。
「とりあえず、その場所にまで案内してもらったほうがいいんじゃないか?」
リアの言葉で俺たちはゴブリンに、その『毒の吹き溜まり』とやらの場所まで案内してもらうことにした。
洞窟の奥に行くにつれて、段々と気配が替わってくるのがわかった。なんというか、嫌な匂いというか……これ以上進むのは危険だということがなんとなく理解できた。
「……ここです」
ゴブリンはそう言って目の前を指差す。確かに巨大な岩が目の前に聳え立っていた。
「さっきの場所にいたゴブリン20人がかりで岩を動かしました。この中に魔法使いの人がいます」
そう言われて俺たちは顔を見合わせる。と、俺がそのまま岩の方に歩いていく。
俺は……岩に触れてみた。なるほど、かなりの質量である。
それこそ、俺が毎回、叩き割ろうとしていた岩よりも何倍も大きい。
「……ミラ!」
俺は岩の向こうに向かって大きな声を出した。しばらく反響があったが……返事はなかった。
「もしかして……もう毒の影響が……?」
不安そうな顔でそう言うサキ。そう言われてしまうと俺も急に不安になった。
だが、その時であった。
(随分と遅かったじゃないか。もっと早く来ると思っていたよ)
と、いきなり声が聞こえてきた。聞こえてきたというよりも、直接頭の中に伝わってくるような声だった。
そして、その声は……紛れもなくミラノ本人の声であった。
「ミラ……?」
俺がそう言うと、皆が怪訝そうな顔で俺を見る。どうやら……俺以外には聞こえていないようである。
(違う違う。ウチに返事するには、頭の中でイメージするんだ)
そう言われて俺は頭に中でイメージをすることにした。
(一体どういうつもりなんです?)
(どういうって……別にどうってこともないよ。ウチは今、毒ガスが溜まっている場所にいる。そして、そこから出るには大きな岩をどかさないといけない。でも……それはウチ自身にも、ゴブリン達にもできない)
(それは……つまり――)
俺がその先を聞こうとするよりも、ミラの声が先に伝わってきた。
(つまり……アスト君がこの大岩を一刀両断するしかないってことだね)
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