第279話 残り時間は……
……なんとなく、ミラが何を言い出すかは予想が着いていた。
しかし、まさか本当にそう言ってくるとは……俺も想定していなかった。
(……ミラ、最初からそのつもりだったんですか? 俺にレディームの魔法をかけて、その上でこの大岩を斬らせるために、ここまで誘導した、と……)
俺が訊ねると、ミラは黙ってしまった。最も、沈黙はすなわち、肯定であるというのは、俺でも理解できるが。
(いいの? ウチはこのままだと毒で死んじゃうけど)
(……ミラのことです。解毒剤などを持っているのでは?)
(残念ながら今回はわざと持ってきていないんだ。だから、アスト君が岩を両断する以外、ウチが助かる方法はない)
……ミラの言っていることはイマイチ信用できないが……仮にもし本当だとすれば、ミラはこの大岩の向こうで毒で死んでしまう。
その場合、誰もミラの遺体を回収できない。遺体を回収できない以上、メルの蘇生魔法でも生き返らせることはできないだろう。
つまり、やはり俺に残された道は――
「……この大岩を両断するしかないのか」
俺は今一度ミラのいる場所へとつながる道を塞いでいる大岩を見上げる。
そして、剣を引き抜き、その剣先を岩にぶつけてみる。
カキン、と情けない音がする。傷一つつくかどうかさえ怪しいものである。
それに……俺は今絶賛絶不調である。すでにレディームの魔法が徐々に体力を奪っているのである。
「アスト……どうするの?」
メルが不安そうに俺に聞いてくる。俺としてもなんと答えればいいのかわからなかった。
(挑戦もしないで、諦めて、ウチを見捨てるのかい?)
ミラの声が聞こえてくる。俺は思わず嗤ってしまった。
「え……アスト、アンタ、大丈夫?」
「……あぁ、メル。すいません。大丈夫……はっきり言います。この岩を、両断します」
「……は? な、何言ってんのよ……そんなの絶対無理に決って――」
俺はメルがすべてを言い終わる前に、剣を思いっきり岩に叩きつける。
ガキン、と鈍い音がする。しかし……岩には傷一つ、つかなかった。
「ほ、ほら、アスト……無理よ」
「……無理かもしれません。でも……このままでは、ミラが死にます」
俺はそう言ってメルのことを見る。メルは目を大きく見開いた後、鋭い視線で俺のことを見る。
「……そうね。このまま勝手に死なれたら、後で叱れないしね」
「えぇ。この大岩を両断した後で、ミラも目一杯叱ってやりましょう」
俺はそう言って再度岩に剣を振り下ろす。しかし、岩には傷がつく気配すらない。
(残り時間は……ウチが頑張っても3時間くらいかな?)
3時間……長いようで短い……というか、大岩を両断する奥義を身につけるには、あまりにも足りないだろう。
だが、やらなければミラが死んでしまう。それならば……俺が選ぶ選択肢は唯一つ。
何がなんでも……大岩を両断することなのであった。
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