第277話 涙目のゴブリン

「……はぁ……はぁ」


「……ちょっと。アスト、大丈夫?」


 メルが心配そうな顔で俺のことを見る。


 洞窟に向かう道のり、俺はかなり厳しい状態だった。


 例えるならば、まるで体の重さが二倍になったかのようだった。自分の体を動かすのだけでもかなり厳しい。


「え、えぇ……大丈夫、です……」


「大丈夫じゃないでしょ、どう見ても……まったく……」


 そう言うとメルは俺の身体に向けて手をかざす。温かい光が俺の身体を少しだけ癒やしてくれる……が、それは焼け石に水のようなもので、根本的な解決にはならなかった。


「……まったく、とんでもない魔法があったものね」


 呆れ顔でそういうメル。リアとサキもこちらへ寄ってきた。


「そうだ、アスト! 私が担いで行ってやろう!」


「え……い、いいですよ。悪いですから……」


「遠慮することはない! アストくらい私は背負えるぞ!」


 リアは親切で言ってくれているのだろうが……さすがに恥ずかしかった。


「リア。そんなことしなくていいから」


「え……大丈夫なのか?」


「えぇ。ほら、あそこ」


 と、メルが指差す先には……洞窟らしき穴があった。


「あそこまでは頑張れるわよね。アストなら」


「え、えぇ……大丈夫です」


 なんとか苦笑いしながら俺は返答する。正直、かなり限界に近かったのだが。


 といっても、なんとか俺たちは洞窟にたどり着いた。洞窟の中は不自然な程に静まり返っていた。


「ゴブリンは……留守かしら?」


 と、メルが言った矢先だった。と、暗い岩陰に、いくつかの物陰が見える。


「あれって……ゴブリンじゃないですか?」


 サキがそういうので間違いないだろうが……それはゴブリンのようだった。


 と、ゴブリン達は即座に俺達に気付いたようだった。即座に俺たちの方に一匹が走り出してくる。


 俺たちは思わず構えてしまったが……ゴブリンは素手だった。というか、なぜか涙目で俺たちの方に駆け寄ってきた。


「た、助けてください! お願いします!」


「……は?」


 ゴブリンはそう言って泣きながら俺たちに懇願する。


「……え? どういうこと?」


 俺たちが思わず困惑してサキの方を見る。いつのまにか魔物との交渉担当になったサキは優しげな笑顔でゴブリンに尋ねる。


「あの~……どうされたんですか?」


「俺たちはやめたほうがいいっていったんです! でも、あの魔法使い、やらないと全員死ぬほど苦しい状態異常にする、って……」


「状態異常? それって……」


 俺たちは思わず顔を見合わせる。サキは話を続ける。


「で、その魔法使いは今どこに?」


「だから! その人を助けてくれって言っているんです! あの人、『毒の吹き溜まり』に入っちゃったんですよ!」


 ゴブリンはそのまま泣き出してしまった。俺たちは再度顔を見合わせる。


 いずれにせよ……どうやら、ミラはこの洞窟の中にいて、しかも、かなり危険な状態であることは間違いないようだった。

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