第274話 囚われの魔法使い

 そして、その日の深夜のことだった。


「ん……ん?」


 ふと、俺は夜中に目が覚めた。見ると、扉が開いていて、誰かが部屋の中に入ってきたようだった。


「ん……ミラ? 帰ってきたのですか?」


「……悪いね。アスト君。これが一番、君にとっては手っ取り早い方法なんだ」


 そう言うといきなり杖を向けられ、何かの呪文が唱えられる。


「え……うぅ……」


 いきなり俺の身体が鉛のように重くなる。それは……間違いなく、『レディーム』の魔法をかけられた感覚だった。


「ミラ……どうして……」


 そして、そのままミラらしき人影は部屋から出ていってしまった。部屋の外で何やら話し声が聞こえたような気がしたが……俺の意識はそのまま途切れてしまった。


「……え? まだ帰ってきていないわけ?」


 そして、翌朝。メルの苛立たしげな声で俺は目を覚ました。


「おはようございます……どうしました?」


「おはよう。言ったとおり、ミラが帰ってきていないのよ……まったく。どこで道草を食っているのやら」


 呆れ顔でそういうメル。といっても、さすがに帰ってこないとなると、俺も不安になってしまった。


 ミラ……昨夜の人影は、どう見てもミラだった。声も間違いない。でも、未だにミラは宿屋に帰ってきていないという、これは一体……


「……というか、アスト。なんかすごい調子悪そうだけど、大丈夫?」


「え……あ、あぁ……いえ……大丈夫です」


 ……いや、大丈夫ではない。間違いなく、これはレディームの魔法をかけられている時の状態だ。そうなると、やはり昨日帰ってきたのは――


「ちょ、ちょっと! 皆!」


 と、慌てて扉を開けて入ってきたのは……リアとサキだった。


「どうしたんですか? そんなに慌てて」


「こ、これ! 朝、宿から出たらいきなり渡されたんだ!」


 そう言ってリアは俺に一枚の紙切れを手渡してくる。


「……『魔法使いは預かった。返してほしければ、街から少し離れた場所にある洞窟まで来い』……え? こ、これって……」


「……誘拐された、ってこと!?」


 俺とメルは思わず顔を見合わせる。リアは泣きそうな顔で俺とメルを見ている。


「渡してきたのは、ゴブリンだった! やっぱりこの街の住人は人間のことを……」


「待ってください!」


 と、錯乱するリアに対して、サキが制止する。


「……この街の住民の魔物は、みんな大人しい感じでした。本当に、人間に敵意なんか感じられませんでした」


「じゃあ、どうしてミラはこんなことに!?」


 リアの問いかけに、サキは答えられなかった。


 俺たちは思わず黙ってしまう。しかし……色々と不安なことはあるが、やらなければいけないことは一つだった。


「……兎に角、ミラを助けましょう」


 それだけは全員の意思が一致した。俺たちは互いに頷くと、宿屋を飛び出したのだった。

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