第273話 炎髪の黒騎士
「なるほど。つまり……まだ成功していないということか」
宿屋に戻ってみても、ミラはまだ戻っていなかった。
先に宿屋に戻っていたリアとサキに事情を話す。そして、今度は俺とメルが、リアとサキの話を聞く番だった。
「それで……どうでした? そちらの方は」
俺がそう言うとサキもリアもあまり喜ばしい表情をしなかったので、情報収集も順調でないことが理解できた。
「……正直、あまり役に立つ話は聞けなかった。どうにも皆、現在の魔王には興味がないようだ」
「そうですか……そうなると、困りましたね……」
魔王の城、そして、魔王の詳細がわからないと、俺たちもどうすることもできない。せめて、少しでも、情報が手に入れば話は別なのだろうが。
「……あ、あの」
と、サキが思いつめたような顔で話を切り出した。
「どうしました? サキ」
「……実はリアさんと別行動をしている時に、この街の裏通りのサキュバスに聞いたんですけど……」
リアに申し訳無さそうな顔で小さく頭を下げるサキ。
「それで……何を聞いたんです?」
「その……街の外れで珍しいものを見たって話を、客がしていたそうなんです」
「珍しいもの? それは?」
「……黒い鎧に身を包んだ戦士で……私達と同じ人間だったそうです」
人間……俺たち以外にこの世界を訪れている人間がいるのだろうか。少なくとも魔王とその配下のかつてのアキヤの仲間たち……それ以外にこの世界を訪れている人間なんて――
「しかも、その人間の髪の毛は……炎のように真っ赤だったそうです」
その言葉を聞いて俺は理解できた。
仲間を置いて疾走してしまったアッシュ……どうやら、そのアッシュはここにたどり着いていたようである。
「……だが、アッシュがこの世界にいるらしいことはわかったが……そもそも、なんでアイツはこの世界にいるんだ?」
リアが怪訝そうな顔をする。しかし、俺にはアッシュがこの世界にやってきている理由がなんとなく理解できる。
「……強くなりたかったから、じゃないですか」
「え? 強く……?」
リアは驚いた顔をしているが、俺はほぼそれで間違いないと確信していた。
とにもかくにも、一刻も早く、俺は、ミラが提案している方法で、力を得なければならないということがわかった。
「……それにしても、あの子、一体どこに行っちゃったのやら」
メルの呆れた様子で、未だにミラが帰ってこないことにその場にいた全員が、気付く。
「……探しに行ったほうがいいのではないか?」
「大丈夫だって。あの子のことだし、どうせ、夜遅くに帰ってくるでしょ」
リアの提案にミラはそう答えるが……やはり、どうにも、俺は嫌な予感がするのであった。
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