第272話 必要とあらば
それから数日、ミラの言う通り、俺は岩を両断するための修行に臨んでいた。
しかし、レディームの魔法がかかった状態で岩を両断するのは簡単なことではなく、数日経っても結局、岩の表面に傷を付けるのがやっとな状態であった。
「う~ん……なんだか、思ったより進まないね」
ミラも少し困っているようだった。
「……やっぱり方法に問題があるんじゃないの?」
メルはそう言ってやはりミラのしていることには不満のようである。ミラはそんなメルを不機嫌そうに見る。
「じゃあ、メルが別の方法を提案してくれるの?」
「は? そういう意味で言っているんじゃないけど……」
「い、いえ……すいません……悪いのは俺ですから……」
何より、俺自身が一番罪悪感を覚えてしまう。俺がレディームの魔法がかかった状態で岩を両断することができればすべて解決する話なのだから。
「……今日はここまでにしよう」
ミラはそう言って俺に杖を向ける。その途端に身体が軽くなった。
「アスト、大丈夫?」
メルが心配そうに俺に聞いてくる。
「え、えぇ……身体は本当に……魔法が解除されると調子が良くなるんですけど……」
「まったく……大体、いきなり岩を両断しろ、なんて無理な話よ。そうする必要があるっていうのなら別だけど」
「……なんだって?」
と、メルの発言にいきなりミラが食いついてきた。その反応にメルは少し驚いている。
「え……だ、だから、いきなり岩を両断しろなんて無理な話でしょ?」
「そこじゃない! メル、さっきなんて言ったの?」
「え……そうする必要があるっていうのなら別だけど、って言ったけど……」
すると、ミラは何かを思いついたかのように目を輝かせる。
「それだ! なんでウチはそんな簡単なことに気が付かなかったんだ!」
そう言うとミラはそのままいきなり走り出してしまった。
「え……ミラ!? どこへ行くんですか!?」
俺が呼びかけると、ミラは笑顔でこちらへ振り返る。
「アスト君! ウチは君のこと、信じているからね!」
そう言って手を振りながらミラは走って行ってしまった。
「……あの子、未だによくわからないところあるわよね」
メルが呆れ顔でそう言って俺のことを見る。
「とりあえず、今日はもう宿屋に戻りましょ」
「え……でも、ミラが……」
「あの子のことなら、放っておいても帰ってくるでしょ。それより、今日は休むこと。これはヒーラーとしての命令よ」
メルに厳しい視線でそう言われてしまうと、従わざるを得なかったのだが……どうにもまたミラは、とんでもないことをしようとしているのではないかと考えてしまうのであった。
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