第268話 期限付きの修行
「……で、その『レディーム』とやらの魔法に耐えられるように修行する……ってこと?」
宿屋に戻って、俺とミラはパーティメンバー全員に説明をした。
最初に怪訝そうにそう言ってきたのは、メルだった。
「え、えぇ……もし、この魔法に耐えることができれば、腕輪の力と同等の戦力を手に入れることができるはずですし……皆の役にも立てるように鳴ると思うので」
実際、俺はそう思っていた。転生の腕輪の力を無くした今となっては、俺はこの魔法を克服し、なんとかしてこのパーティの役に立てるように戻りたいのである。
しかし……この話をしたところ、あまり全員の反応は良くなかった。
「どうしたんだい? 皆、アスト君が強くなるのに、あんまりうれしくないの?」
ミラが不思議そうにそう言う。しかし、メルは呆れ顔で俺とミラのことを見る。
「……あのねぇ。さっきの説明聞いて、はい、そうですか。よかったです……って言えるわけないでしょ?」
「……あぁ。私も同感だ」
元気になったリアも暗い面持ちでそう言う。
「今の話を聞くと……相当、アストに負荷がかかるのだろう? そこまでして強さを取り戻そうとしなくても……」
リアは本気で心配そうにそう言っているようだった。
「リア……だ、大丈夫ですって。俺はこう見えても丈夫に出来ていますから」
「まぁ、丈夫に出来ていても危険なものは危険なんだけどね」
俺がなんとかフォローした矢先に、ミラがさらっと、とんでもないことを言う。
「……ミラ。アンタ、アストを壊したいわけ?」
少し苛つきながら、メルはミラを睨む。
「壊したいなんて、そんなわけないじゃないか。ウチは、本当のことを言っているだけだよ。どんなに屈強な人物でも『レディーム』に必ず耐えられるわけじゃない。アスト君であっても耐えられるなんて保証はないからね」
ミラの発言で益々険悪な感じになってしまった。俺もどうここから先を説明したら良いかわからなくなってしまった。
「……あの、じゃあ、こういうのはどうでしょう」
と、そう言ったのはサキだった。
「こういうのって……どういうの?」
メルが少しぶっきら棒にそう訊ねる。サキはおずおずと先を続ける。
「その……実は色々と街の魔族とか魔物に聞いたんですけど、魔王の城への行き方って、誰も知らないみたいなんですよね」
「……はぁ? 行き方って……すぐそこに見えてるじゃない」
「それが……見えているだけで行けないみたいなんですよね。ですから、魔王の城にたどり着く方法を探さないといけないみたいで」
サキが申し訳無そうにそう言う。メルは納得いかないようだったが……サキが言うことが本当なら、情報収集の必要がある。
「そういうことなら話は早いね。アスト君が『レディーム』の魔法を克服するまでの期限を設けよう。期限は魔王の城への行き方が判明するまで。それまでに克服できなければ、きっぱり諦める……それでどうかな?」
ミラがそう言うと、誰も否定はしなかった。俺としても、たしかに期限があった方がなんとかしようという気分になるような気がする。
「じゃあ、決定だね。さぁ、アスト君。なんとかして『レディーム』を克服しようね」
嬉しそうに微笑むミラ。俺は苦笑いで返すしかなかった。
「それ、私をも付き合うわよ」
と、そういったのはメルだった。
「ミラ。アンタだけに任せたら、アストがどうにかなっちゃうかもしれないし」
メルがそう言うとミラはニヤニヤしながらメルのことを見る。
「……何よ?」
「いや、メルはほんとにアスト君のことが心配なんだなぁ、って」
「はぁ? そ、そんなの当たり前でしょ……」
そう言って顔を反らしてしまうメル。とにもかくにも、こうして俺の期限付きの修行が開始されることになったのであった。
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