第267話 呪縛の魔法
「ミラ……それで、俺はここからどうすれば……!?」
正直、喋るのもかなり辛いレベルだった。痛み……というか、体全体が重いのである。
「う~ん……とりあえず、動いてみることから始めてみようか」
……動く? 俺はそう言われても困ってしまった。
まるで俺は……動くことを忘れてしまったのである。
どうやって足を動かせば良いのか、そして、剣を構えれば良いのかさえわからなくなる……それは混乱を通り越して恐怖にまで到達する。
「アスト君。落ち着いて。大丈夫だ」
ミラの言葉が聞こえてきて、俺はなんとか精神を保つことが出来た。意思を強く持って、俺は剣を握ったままで立ち上がる。
「……み、ミラ……俺、今ちゃんと、立ってますか?」
「うん。大丈夫。立っているよ。じゃあ、動いてみて」
ミラの言うとおりに身体を動かしてみようとするのだが……動かない。右腕を動かそうとすると、左足が動く。左足を動かそうとすると、今度は左手が動く……まったく意味のわからない現象だった。
「……無理です。動けません」
「アスト君、落ち着いて。君は何度もアキヤの……勇者の力を使いこなしてきたはずだ。勇者の力を使う時に、君は何を考えていた?」
「アキヤの……力?」
腕輪の力が発動している時……俺は何も考えていなかった。
むしろ、腕輪が発動している時は、通常時より動けて当然という感覚だった。
「この魔法はそれと同じ。君に魔法がかかっている間、君は、君自身が思っている以上に早く動くことができるし、強くなる。試しに、少し向こうにあるあの岩を見てごらん」
そう言ってミラが指差す方を俺も見る。確かに、ミラの指差す方向に、大きな岩があった。
「え、えぇ……ありますが……」
「あれを、真っ二つに切ることが出来るはずだ」
「真っ二つ……そんな……」
俺は信じられないという思いでミラを見る。しかし、ミラは真剣だった。こういう表情のとき、ミラは嘘をついていない。
俺は観念して、岩の方に向かっていく。しかし、岩の方に歩いていくだけでも、体力がどんどん消費されていく。
そして、なんとか岩の近くまで到達することができたが……すでに体力は限界だった。俺は剣を振り上げたが…‥力が入らない。
「あ……もう……駄目……」
俺はそのまま地面に倒れてしまった。すると、少ししてからミラがやってくる。
「……うん。上出来。むしろ、ウチが見込んだ通りだね」
「……へ? どういうことです?」
すると、ミラはしゃがみこんで嬉しそうに俺を見る。
「そもそも、この魔法は、かけられた対象が、あまりの苦痛と、自分の身体の自由が突然利かなくなったことでパニック状態になって、完全に錯乱する呪縛の魔法だからね。でも、アスト君はそんなことにならずに、しかも、歩くことができた。今日はこれで十分だよ~」
「……今日は、っていうことは、これは……明日以降も続くってことですか?」
ミラはニッコリと微笑むと、俺に向かって杖を振る。その瞬間、身体が軽くなる。
「『レディーム』は解除したから、しばらくしたら動けるよ。魔王の本拠地に乗り込む前に、一緒に頑張って力を取り戻そうね」
笑顔でそう言うミラに対して、俺は力なく微笑むことしか出来ないのであった。
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