第263話 不思議な友好
「ほら。ここが宿屋さ」
リザードマンは普通に俺たちは宿屋を紹介してくれた。確かに看板もでているし、どう見ても俺たち人間の街と同じような宿屋だった。
「あ……どうも、ありがとうございます」
「いやいや。というか、君たち……どうやってここまで来たの?」
と、リザードマンが不思議そうな顔で俺たちを見る。
「え……えっと、穴を通ってきました」
サキがそう言うと、リザードマンはさらに驚いた顔をする。
「へぇ……いや、確かに穴の先に行けば人間の世界につながっているって聞いたけど……ほんとに通ってくるとは思わなかったなぁ」
「……普通は通らないんですか?」
「この世界に住んでいる魔物や魔族はほとんど人間の世界に行かないよ。そもそも、魔王様は勇者に倒されちゃったしね」
リザードマンはそう言って苦笑いする。俺たちは思わず顔を見合わせてしまった。
「え……でも、今も魔王って、いますよね?」
俺は思わず聞いてしまった。すると、リザードマンはムッとした顔をする。
「……あぁ。アレね。どうでもいいよ。あんなヤツのことは」
「え? どうでもいいって……」
「……えっと、たぶんここに来るのも初めてな君達にこういうことを言うのも嫌なんだけど……アイツの話はあんまりしない方がいいよ。人によっては怒り出す人もいると思うから」
話題にするのも嫌という感じでリザードマンは嫌な顔をしている。
……なんだ? なんで今の魔王の話をするとこんなにも反応が悪いんだ?
「えっと……とりあえず、ありがとうございます」
険悪な雰囲気になったところで、サキが話題を変えてくれた。
「あぁ、どういたしまして。じゃあ、また縁があれば」
そう言ってリザードマンは笑顔で去っていった。俺たちは思わず呆然としてしまった。
「……えっと、何これ?」
メルが混乱したかのように俺に聞いてくる。いや……俺としても意味がわからない。
それに、先程の現在の魔王に対する反応……どういうことなのだろう?
「……とりあえず、宿屋に入ろうか」
ミラにそう言われ、俺たちはそのままリザードマンに案内してもらった宿屋に入ることにした。
「いらっしゃいませ! ……おや! 人間様とサキュバス様の御一行ですか! 珍しいですね!」
宿屋に入ると、迎えてくれたのは、小綺麗な感じのゴブリンだった。俺たちは今一度顔を見合わせてしまう。
「お泊りですか? 承りますよ。お食事などはどうされます?」
「あ……えっと、とりあえず、休憩したいので、部屋を貸してくれますか?」
「かしこまりました。どうぞどうぞ」
ゴブリンの主人はそのまま案内してくれた。通された宿屋の部屋はかなり綺麗で、人間の街のそれとまるで変らなかった。
「幸い、本日は混んでおりませんので、一番大きい部屋をお使いいただけます。どうぞ、ごゆっくり」
笑顔でゴブリンの主人は帰っていった。俺たちはましたしても顔を見合わせる。
「……ホントにどうなっているんですかね?」
ここは魔物と魔族の街……それなのに、どうして、ここまで人間に対しても友好的なのだろうか? 今のところ、違和感しかないのだが……。
「まぁ、敵対してくるよりは全然いいよ。お言葉に甘えてゆっくり休もうよ」
ミラだけがいつものように飄々としている。とりあえず、俺はリアをベッドに寝かせ、その部屋で過ごすことになったのであった。
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