第261話 安らぎのために

「……しかし、結構遠い距離にありますね」


 魔王の城らしき建造物はかなり遠い場所にあるようだった。歩いても歩いてもまるで近づいている気配がない。


「……っていうか、サキ。アンタ、この世界に詳しいんじゃないの?」


 疲労感の強いメルがサキに尋ねる。


「あー……いえ、私、魔界生れじゃないんで……魔界生れのサキュバスから話くらいは聞いたことは在るんですけど」


「あ、そう……で、このままずっとあるき続けなきゃいけないわけ?」


 メルがそう言うと、サキは少し考え込む。


「いえ……確か、魔界にも……街があったはずなんですよね」


「街? え……それって、魔物がたくさん住んでたりするわけ?」


「そりゃあ、まぁ……そうですね」


 ……魔物が住んでいる街って、それ、立ち寄ることすらできるのだろうか? そもそも、人間は街の中に入れないとかじゃないのだろうか。


「いいんじゃない。その街に寄ってみても」


 そう言ってきたのは、ミラだった。


「アンタ……本気で言っているの?」


「うん。それに興味もあるし」


 ……どう考えても興味があるから寄っていきたいのだと思うが……確かにこの世界に来てからずっと歩きっぱなしである。


 おまけにリアは俺が背中に背負ったままで未だに目を覚まさない。


 仮にもし、休憩できるとするのならば魔物だらけの街であっても、立ち寄ったほうがいいのかもしれない。


 しかし、それと同時に俺は……それまで腕輪を嵌めていた右腕を見る。


 俺には……もう、アキヤの力はない。圧倒的な戦闘力がない以上、このパーティで一番足手まといになってしまうのは――


「あれ……街じゃないですか!?」


 と、嬉しそうに声をあげるサキ。見ると、たしかにサキの指差す方に街らしきものが見える。


「……ねぇ、アスト。アンタも……寄ったほうがいいと思う?」


 メルは明らかに嫌そうな顔で俺に聞いてくる。


「あはは……まぁ、休憩が取れる可能性もありますし……リアにも十分な休憩場所が必要です」


「……そう。まったく……とにかく、戦闘態勢で行くしか無いわね」


 杖を構えてそういうメル。そうだ……俺はメルを守ることも、十分にできないかもしれないのだ。


「アスト君。もしかして、戦力ダウンを気にしているわけ?」


 と、いきなりそう言ってきたのはミラだった。


「え……それは……まぁ」


「なぁんだ。そんなこと。大丈夫。ウチに考えがあるからさ。とにかく、街に行こうよ」


 そう言ってニッコリと微笑むミラ。俺の予感としては……こういうときのミラの考えというのはかなり危ない事例が多々あるのだ。


 とにかく、俺達は魔物が住むとされる街に向かって歩き出したのであった。

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