第257話 さよなら、最強

「で、これが先程の五月蝿いヤツが封印されていた腕輪か」


 レイリアは俺が破壊しようとしていた腕輪を見て、つまらなそうに呟いた。


「えぇ……これを破壊しようとしていたのですが」


「まぁ、これを破壊すれば、今、妾が剣に封じた者の力も意識も消滅するだろうな」


 やはり、俺の想定した通りだったらしい。というか、これもミラのおかげなのであるが。


「しかし、レイリア。今、アキヤは吸魂の剣の中に封じ込めてしまいましたよね? どうするんですか?」


 俺が尋ねると、レイリアはそんなことか、と言わんばかりの表情で俺を見る。


「簡単だ。コイツを腕輪に戻してやればいい」


「え? でも、どうやって――」


 俺が訊ねようとする矢先に、レイリアはいきなり救魂の剣で、腕輪を貫いた。


「え……な、何して……」


 俺が驚いているのも束の間、レイリアは突き刺した腕輪から剣を引き抜く。腕輪はまだ形を保ってはいるが、今にも壊れそうである。


「今ので、先程、大口を叩いていたやつは腕輪の中に戻った」


「え? いまので?」


「ああ。腕輪を見るがいい」


 言われるままに俺は腕輪を見る。と、腕輪はうっすらだとだが、光を放っている。確かに腕輪の中にアキヤの意識と力が戻ったようだった。


「……さて、アスト。お前には二つ選択肢がある。この壊れかけの腕輪を装備して、元の力を取り戻すか、それとも……」


 そう言ってからレイリアはなぜか腕輪とは正反対の方向を見る。レイリアの視線の先には、青く光っている水面が見える。どうやら地底湖が近くにあるようだった。


「永遠に最強の力と別れるか、だ」


「……俺がすべきことは決まっています」


「そうか。しかし、わかっているのだろうな? お主には妾との約束を守ってもらう必要がある。その最強の力を放棄して、妾との約束を果たせない時は――」


「その時は……俺の身体をアナタに差し出します」


 俺がそう言うと、レイリアは、リアの表情で、リアが絶対にしないような、悪辣な笑みを浮かべた。


「……フッ。そこで、リアではなく、己の身体を差し出すと言うところが、お主らしいな」


「アナタと俺の約束にリアは関係ありません。それに……俺はこの力を手放しても、アナタとの約束を守ります」


 俺がそう言うと、レイリアはどちらでもいいというような表情をする。俺は腕輪を拾い上げ、地底湖の方に向かう。


(おい! 考え直せ! 俺がいなくなったらお前はただの雑魚だぞ!?)


 地底湖の岸へと向かっている間、そんなアキヤの声が腕輪を装備していなくても聞こえてくる。


(わかった! さっきのはただの悪い冗談だ! お前が羨ましかっただけだって! それに、俺たちうまくやってきたじゃないか!? な? 相棒だろ?)


 地底湖の岸にたどり着いた。青く光る水面は、妖しく俺を誘っているようにも見える。


「……そうですね。確かにアキヤには随分世話になりました」


(そうだろ? 大体お前は俺が死んで転生したから存在できているようなものなんだぞ? 俺をこの地底湖に投げ入れるってことは、自分を殺すようなものだぞ?)


 俺は腕輪をギュッと握りしめる。そして、今一度微かな光を放つ腕輪を見つめる。


(な? 二度とこんな真似はしないからさ……お前だって、アイツらにパーティから追い出されたくないだろ?)


「……なんですって?」


 聞こえてくるアキヤの声に対して、俺は聞き返す。


(だから! 俺の力がなくなったら、アイツらはお前を簡単に見捨てるぞ? 俺も仲間に裏切られたからなぁ~。俺は経験者だからわかっていて――)


「……に……するな……!」


(は? な、なんだって?)


「……俺の仲間を……お前の仲間と……一緒にするなぁぁぁ!!!」


 俺はそう絶叫するとともに、力いっぱい、地底湖に向かって腕輪を放り投げた。


 腕輪は放物線を描きながら、一瞬だけ輝き、そのままボチャンと水音を立て……地底湖の底に沈んでいき……そのまま見えなくなった。


 こうして……俺は最強の力と、決別したのだった。

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