第256話 決別の決意
すべてを諦め、絶望し、消滅を覚悟して目を閉じていた……しかし、次の瞬間はいくら経ってもやってこなかった。
俺はゆっくりと目を開く。と、目の前に広がった光景は――
「な……なんでだ……?」
アキヤが驚愕の表情で自身の胸元を見ている。と、アキヤの胸元には剣先が生えていた。
正確には、アキヤの胸元を剣が貫いているのだ。そして、そのアキヤの背後にいるのは……。
「……リア」
なんと、リアがアキヤの背後から剣を突き刺していたのだ。
アキヤは苦しそうになんとか体勢を変えようとしているが、剣先は完全に胸元を貫いていて、身動きもとれない。
でも、リアはもう身動きも出来ない程にダメージを受けていたはず。それなのにどうして……。
「お、お前……馬鹿か? この身体はお前の仲間のものなんだぞ……?」
「……仲間? 知らんな。妾にとってはどうでもいいものだ」
その言葉使い……俺は瞬時に理解した。
リアではない……レイリアだ。レイリアがアキヤの胸元を剣で貫いたのだ。そして、その剣は――
「は……ハハッ! お前は馬鹿か!? 俺は最強の勇者だぞ!? 剣で一突きされたくらいで……」
「あぁ、お主、この程度では倒せぬだろう。元よりお主を倒すつもりなどない」
「……はぁ? じゃあ、一体何を――」
そうアキヤが言おうとした瞬間に、レイリアの持っている剣……吸魂の剣が怪しく光る。
「さぁ、お主の新しい住処を用意してやるぞ。こっちへ来るがいい」
「なっ……! て、てめぇ! や、やめ――」
アキヤがそう言い終わらないうちに、吸魂の剣が妖しく輝き、辺りを包んだ。俺は思わず目をつぶってしまったが……次の場面では、レイリアがアキヤの胸元から剣を引き抜く。
それと同時にアキヤはまるで糸の切れた操り人形のようにその場に倒れてしまった。
「……実力はあったようだが、油断が命取りだったな」
倒れたアキヤを一瞥してから、レイリアは剣を持ったままで俺の方へやってくる。
「れ、レイリア……なんで――」
「早くお主の身体に戻れ」
有無を言わさぬ迫力でレイリアは俺にそう言う。
「……えぇ。戻りたいですけど……どうすれば?」
「はぁ……簡単じゃ。今のお主の身体は抜け殻じゃ。家に帰るイメージをしろ。そうすれば元に戻れる」
……いまいちわかりにくい表現だったが、俺はレイリアの言う通りにしてみる。
と、次の瞬間には、何が起こったのかはわからなかったが……いつのまにか俺は元の身体に戻っていた。
「あ……よ、良かった……戻りました! レイリア、本当に――」
と、俺がそうレイリアにお礼を言おうとした矢先だった。パシンと乾いた音が聞こえる。
「……え?」
俺は……レイリアに頬を叩かれたようだった。ジンと痛む頬を触りながら俺はレイリアを見る。
「これは、リアの代わりだ」
レイリアは鋭くそう言い放つ。そして、責めるような目つきで俺を見る。
俺は叩かれてすぐにレイリアの言っていることの意味がわかった。
「……すいません。俺は……」
と、俺は謝ると、今度は先程よりも強めに頬を叩かれる。
「そして、これは妾の分じゃ」
「……レイリアの、ですか?」
「あぁ。お主は危うく妾との約束を破るところだった。妾が慈悲の心を起こさなければな……そうだろう?」
「……えぇ。そうですね」
レイリアの言う通りすぎて、俺は情けなくて何も言い返せなかった。
そう言ってからレイリアはめんどくさそうに吸魂の剣を見る。
「……で、この剣の中にいる面倒なヤツ……お主はさすがにどうすればいいか、わかっておるのだろう?」
そう聞かれて俺はゆっくりと頷く。
「……えぇ。アキヤとは……最強の力とは、今日でお別れです」
俺の答えを聞いてレイリアは悪辣にニンマリと微笑むのであった。
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