第255話 諦め

「……気付いたんですか?」


 俺はゆっくりと、アキヤに話しかける。


「あ? 当たり前だろう? ガンガンガン、うるさくて仕方ねぇ。で、音のする方に来てみたら、存在自体が薄くなっているヤツがまだ何かしてやがる……お前、何してたんだ?」


「……アナタには関係ないことです」


 と、俺がそう言うとアキヤは俺の首筋に剣先を食い込ませる。ジワリと血がにじむ感覚があった。


「へぇ。ほぼ消えかけのやつでも、完全に消滅させることはできそうだな? で、さっきから何ガンガンうるせぇ音出して……あ? てめぇ、なんだそりゃ」


 そう言ってアキヤは俺が破壊しようとしていた腕輪を見る。と、アキヤは何かを察したようでニヤリと笑みを浮かべる。


「なるほど……その腕輪を壊そうとしていたってことか。それで、どうにかなるって、お前、思ったんだろ? ……アヒャヒャヒャ! 馬鹿じゃねぇの!」


 馬鹿にしきった顔でアキヤは俺をあざ笑う。


「あのなぁ……俺だって、馬鹿じゃねぇよ。一度痛い目を見ているんだ。万が一の可能性は考えているんだよ。その腕輪が……俺の依代になっているって話だろ?」


 俺は思わず目を見開いてしまう。図星だったことが完全にバレてしまったが……まさか、アキヤがそれを知っているとは思ってみ見なかったからである。


「確かにその腕輪は俺の依代だった。だが、俺は準備をしてた。あのクソみたいな腕輪の中で……馬鹿なお前が限界まで力を引き出した時、俺がお前の身体を乗っ取れるように、そして……俺とその腕輪の関係性が完全に断ち切れるようにな!」


「そんな……だって……アナタは……」


「魔法が苦手だって? んなわけねぇだろ! 俺は最強の勇者だぞ? 苦手なんじゃねぇ。面倒だから嫌いなだけだ。ありとあらゆる魔法が使えるから、俺にはそもそも、魔法使いも、ヒーラーも必要ねぇんだよ!」


 完全に勝ち誇った顔で俺にそう言うアキヤ。


 俺はその時理解した。


 あぁ……もう俺は駄目なんだ、と。俺の身体を取り戻すことはできないのだ、と。


 そして……俺は仲間を守ることはできないのだ、と。


「アヒャヒャヒャ……理解できたかよ? 死にぞこない?」


「……えぇ。俺の……負けです」


「負け? 馬鹿じゃねぇのか? お前は最初から、俺の力しか使ってこなかった。たまたま俺の転生先がお前だったってだけだ。俺がお前のおまけなんじゃねぇ。お前が俺のおまけなんだよ」


 アキヤに言われて俺はボロボロになった腕輪を見る。


 そうか……この腕輪は俺なのだ。今までアキヤの力に頼ってきた、本体のおまけのようなもの。


 そう考えると俺はもう何も言い返すことが出来なかった。


「心配するなよ? お前のお仲間とやらは俺が可愛がってやるぜ? 今度はマギナやルミスみてぇに俺に対して反抗心なんて起こさないくらいにボロ雑巾になるまでよぉ……だから、安心して、消えろ!」


 そう言って、アキヤは俺に向かって持っていた剣を思いっきり振り下ろした。


 絶望……その言葉がそれほどまでに似合う状況を俺は知らないくらいに、その通りだった。


 そして、間違いなくその時、俺はすべてを諦めていたのだった。

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