第258話 命懸けの先へ

「柄にもなく随分と昂ぶっていたようだな?」


 元の場所に戻ってくると、レイリアがバカにした調子で俺のことを見ていた。


「……えぇ。そうですね」


「して、お主はついに最強の力を手放した。今のお主なら、妾が本気を出せば一瞬で死体にすることもできると、わかっているか?」


 レイリアが挑発するような目つきで俺を見てくる。しかし、俺は首を横にふる。


「……そんな馬鹿な真似、アナタはしない。そもそも、放っておけば俺はアキヤに殺されていた。それなのに、アナタが出てきたのは……アナタが俺に約束を果たさせようとしているからだ」


 俺がそう言うとレイリアは小さく頷く。


「ふむ……理解はしているようだな。そのとおり、妾は新しい身体がほしい。だからこそ、お主に対して慈悲の心を出したのだからな」


「えぇ……大丈夫です。俺もわかっているつもりです。それに……俺はリアをアナタの呪縛から解き放ってあげたいと思っている」


 俺はそう言ってレイリアのことを見る。レイリアはキョトンとした顔で俺を見ていたが、不意にプッと小さく笑った。


「まったく……非力なくせによくも大きなことを言うものだ。いいだろう。約束、忘れるなよ」


 そう言うとレイリアが剣の中に戻ったのか、リアがそのまま身体を崩す。


「リア!」


 俺は慌ててリアの身体を支える。リアは弱々しいが意識は保っているようだった。


「あ……アスト……なのか?」


「えぇ……戻ってきました」


 俺がそう言うとリアは力なく嬉しそうに微笑む。


「そ、そうか……フフッ……私の信じたとおりになった、な……」


「えぇ……待たせてしまって、すいません……」


「いいんだ……でも、少し疲れた……私は、休む……」


「リア? ……リア?」


「大丈夫。意識を失っているだけだって」


 と……いきなり聞こえてきた声に俺はそちらに顔を向ける。


「……ミラ。やはり、無事だったんですね?」


 俺がそう言う先には、ミラが苦笑いしながら立っていた。


「あはは……やっぱりアスト君なら気付いていたか」


「……いくら魔法でメッセージを残しておくことが出来たとしても、本当に俺が戻ってくるかなんてわかるはずもない……だから、これは俺に対して語りかける魔法なんだ、って思ってました。ミラは意識を失ったフリをしているんだ、って」


「フフッ……アスト君。鋭いね。流石。まぁ、ウチもアスト君が戻ってくるとは思ってたよ」


 そう言うとミラは懐から何かを取り出す。それは……一枚の薬草のようだった。


「……これ。体力と魔力が全回復する万能薬草。こういうときのために隠しておいたんだけど……誰に使えばいいかわかってるよね?」


「えぇ……しかし、この状態では一度、街に戻ったほうが……」


「いや、行こうよ」


 と、ミラははっきりとそう言った。俺は思わず驚いてミラの方を見てしまう。


「皆命がけで戦った。それなのに、ここまで来て引き返すなんてあり得ない」


 いつもヘラヘラしているミラの決意のこもった表情に俺も小さくうなずいた。


「……わかりました。では……メルに万能薬草を使って下さい」


「フフッ。了解」


 そう返事をしてからミラは一度メルの方に行きかけようとして俺のことを今一度見る。


「……どうしました? ミラ」


「いや……腕輪がないアスト君の方がウチは好きだよ」


 それだけ言ってミラはメルの方へ向かってしまった。ほとほと……ミラには敵わないなと思い知らされるのであった。

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