第249話 落ちていく
宝石に亀裂が入ったと思った次の瞬間だった。その亀裂は大きくなっていき……すぐにその大きな宝石は粉々に砕けてしまった。
『グォォォォォォ!』
口内にいるためか、耳をつんざくような雄叫びが聞こえる。それと同時に、口内いてもわかるレベルで、ドラゴンゴーレムの身体中にヒビが入り始めた。
「ま、不味い……! アスト、早く逃げよう!」
しかし……なんだか、リアの声が遠くに聞こえる。俺はなんだか自分が自分でないようだった。
(おい……もういいだろ? お前がほしい力はくれてやったんだ。俺に身体を寄越せよ……)
……駄目だ。ここで身体を渡しては……俺もリアもみんなにもとに戻らないといけない……。
俺はなんとか気を保ってリアの方にかけていく。見ると、すでに口が閉じられようとしているようで、外から入る光がわずかになっている。
「ど、どうすればいいんだ……」
さすがのリアも気弱になってしまっているようである。そもそも、口から外に出られたとしても、元来たように腕を伝って地面に戻ることはできない。
そうなると……手段は一つしかなかった。
「……リア。すいません」
「え? お、おい! アスト!」
俺はリアの身体を抱える。いわゆるお姫様だっこのような形で抱えた。
「すいません……俺に掴まっていてください」
そう言って俺は今にも閉じられそうなドラゴンの口の端までやってくる。思った通り……かなりの高さだった。
はるか下方には心配そうに俺とリアを見て手をふるミラ、メル、キリ、サキが見える。
「アスト……だ、大丈夫なのか? この高さから飛び降りて……」
リアが青い顔で俺に訊ねてくる。
……おそらく、普通の俺ならば駄目だろう。だが……腕輪の力をさらに引き出せば……
(そうだ……! そうすれば俺に身体を差し出すことになるからよ……!)
俺は腕輪に祈る。腕輪がこれまでに無い程の光を放つ。
「あ……アスト! 駄目だ! それ以上腕輪の力を使ったら……!」
心配そうな顔でそう言うリアに、俺は微笑む。
「……大丈夫です。俺はリアを……皆を守るためにこの力を使いますから……!」
俺はそう自分に言い聞かせる。そうだ……俺なら大丈夫。たとえ、どんなにアキヤの力を引き出しても、俺は――
(……あぁ、大丈夫だ。お前の仲間は俺が可愛がってやるからよ)
頭に響いた声を振り払い、俺は……すでに身体の自壊が始まっているドラゴンの口から飛び降りたのだった。
飛び降りた時間は……思ったより短かった。そして、それから10秒程後には地面に着地する。
すさまじい衝撃が身体を巡る。だが、俺の身体は腕輪の力で強化されているのだから、此の程度の落下ダメージは耐えられる。
耐えられるはずなのだが……。
(ククク……さぁ、ゆっくり休めよ)
その衝撃を感じたと同時に、不気味な笑い声を聞きながら俺は、気を失ってしまったのだった。
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