第248話 一撃にすべてを
「いてて……り、リア!? 大丈夫ですか!?」
「あ、あぁ……大した怪我はしていないぞ」
飛び込んだ時に思いっきり体勢を崩してしまったらしい。しかし、なんとか俺もリアもドラゴンゴーレムの口の中に侵入することができようである。
俺はとりあえず、周囲を探し回る。ドラゴンゴーレムの口内はまるで洞窟のうようであった。
「アスト! 早く探さないと! 少しずつだが口が閉じているぞ!」
リアに言われて、確かに外から入ってくる光が小さくなっている。これは急がないと不味いようだ。
俺は目を凝らして周囲を見てみる。と、暗闇の奥に何か赤く光るものがあった。
「リア! こっちです!」
リアに呼びかけ、そのまま赤く光る物体の方へ駆け寄っていく。
「こ、これは……」
近くまで駆け寄っていってそれがなにかはわかった。
赤い……巨大な宝石だった。しかし、ただの宝石ではない。ただならぬ魔力が溢れているのが、俺でも理解できる。
「これを壊せば、このドラゴンゴーレムは自然と自壊するはずです!」
俺はそう言って、剣を構える。そして、そのまま思いっきり宝石に向かって剣を振り下ろした。
ガキン、という音がする。しかし……まるで文字通り、刃が立たない。傷一つついていなかった。
「なんという硬さだ……アスト、これは――」
……予想外だった。動力源がここまで頑丈なものだとは思っても見なかったのである。
しかし……ここまで来てしまったのだ。今更動力源が破壊できないからといって逃げ出すことはできない。
俺は何度も剣を突き立てる。しかし、無情にもまるで宝石にはかすり傷すら付かない状態だった。
「あ、アスト……もう危険だ! 口が大分閉じている!」
リアに言われて俺もすでに出口が大分狭くなっているのに気付いた。しかし、ここで何もできずに皆のもとに戻るわけにはいかない……!
「ここまで来て……!」
俺はふと腕輪を見る。
……いや、まだ手はある。限界近くまで腕輪の力を引き出せば……この宝石ですら破壊できるかもしれない。
しかし、それは……身体を完全にアキヤに明け渡すことにもつながりかねない。もし、俺の意識が身体を取り戻すことが出来なかった時は――
俺が悩んでいたその時……ふと、腕輪にリアの手が添えられる。
「……リア?」
「……アスト。いいんだ。アストが恐ろしいと思うことなら、しなくていい。一度態勢を立て直して、もう一度このドラゴンの攻略を考えよう」
リアは優しくそう言ってくれる。しかし……リアはレイリアと対峙したのだ。自分を飲み込むかもしれない存在と、立派に対峙した。
それなのに、俺は――
「……リア」
俺は腕輪に添えられたリアの手をそっと握る。
「……すいません。心配をかけて。大丈夫です。必ず戻ってきます」
「なっ……! アスト、駄目だ……!」
俺はそう言ってからリアを突き飛ばす。そして……腕輪に祈りを込める。
この強固な宝石を……このドラゴンゴーレムを討伐できるだけの力を、俺に……!
(いいのか? そんなに力を求めても?)
嗤う声が聞こえる。しかし……俺は迷わない。
「……ええ。それで俺の仲間が守れるなら……!」
腕輪からまばゆい光が溢れる。それと同時に、全身に感じたことのない程の力が漲る。
すでにドラゴンの口はほぼ閉じられている。退路はない。
「……うぉぉぉぉぉ!」
俺は、全身の力を込めて、宝石に剣の一撃を込める。
ガキン……駄目かと思った次の瞬間……宝石に微かな亀裂が走ったのだった。
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