第241話 アナタといたいから

 メルのそんな言葉が放たれてから、しばくらの時間、俺たちの周りは沈黙が漂っていた。


 メルとサキはしばらくの間見つめ合っていた。サキは気まずそうな顔で俺とメルを交互に見ている。


 俺としても……かなり、気まずい気分だった。何かメルが思うところがあるとはいえ、ここまで気まずい感じにしなくてもよいのではと思ってしまう。


 と……先に動いたのはサキだった。サキの目からは……一筋の涙が流れる。


「……嫌です」


 しぼりだすような声で、サキはそう言った。


「……なんて言ったの?」


 確認するかのように、だが、優しく諭すような声でメルはサキに訊ねる。


 その瞬間、サキは大粒の涙を両目からこぼし始める。


「……嫌です! メルさんに……皆さんに魔物として処理されるくらいなら……私も魔王を倒すお手伝いをさせてください~!」


 そう言って、サキはメルに抱きつく。


 ……予想外の展開だった。サキがこんなにも俺たちのことを思っていてくれた……というか、メルのことを思っていたとは考えなかった。


 と、俺が驚いているのを他所に、サキはメルに抱きつきながらワンワン泣いている。メルはしばらく黙っていたが、不意にプッと小さく吹き出した。


「……メルさん?」


 サキもそれに気がついたようで、驚いた顔でメルのことを見る。


「ふっ……あははっ! はぁ……アンタ、ホントに騙されやすいわね~」


「え……じょ、冗談だったんですか!? 酷いですよ~!」


「悪かったって。でも、今言ったことに二言はないでしょ?」


 メルにそう言われてサキは少し不満そうでは会ったが、小さく頷く。


「いいわ。じゃあ、もしものときの回復アイテムの準備してきなさい。私とアストはギルドの集会所で待ってるから」


「……はい!」


 嬉しそうにサキは家の奥に戻っていった。俺とメルは家の外に出る。


「えっと……良かったですね。サキが私達のことを選んでくれて」


 俺がそう言うとメルはフッと優しげな微笑みを浮かべる。


「……当然でしょ。わかってやっていたのよ、私だって」


 メルはそう言ってあるき出す。ただ……俺はどうしても気になることをメルに訊ねる。


「えっと……もし、サキが、魔王を倒すことに協力できないって言ったら……どうするつもりだったんです?」


 俺がそう言うと、メルはニヤリといたずらっぽく俺に微笑む。


「……さぁ? もし、そうなったら……どうしたと思う?」


 ……その言葉を聞いて、やはり、俺のパーティのメンバーは敵に回したくないなと、改めて実感するのであった。

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