第242話 力への恐怖

「それじゃあ、準備は良いってことね」


 街のハズレまでやって来て、ミラが俺たちに確認を取る。


 サキも、覚悟が決まったようで、メルのとなりに立っている。


 俺たちにアッシュの救出を依頼したホリアとメディも俺たちから少し離れた場所に立っていた。


「ウチが転移魔法を使った次の瞬間には、どこにいるかわからないキリちゃんのいる場所に一瞬で転移するんだけど……その意味、わかる?」


 と、ミラが確認するかのように俺を見てくる。


「え……いや、よくわかりませんが……キリのいる場所に行けるってだけなんじゃないですか?」


 俺がそう言うとミラは首を横にふる。


「あのね、どこにいるかわからないというか、正確には……今、どういう状況にいるかもわからないんだよ?」


 ミラに言われて俺は理解する。確か、転移の穴のある洞窟というのは、周辺は魔物だらけだという話であった。


 そうなると、もしかすると、キリは……危険な状況にいる可能性もあるということか。


「……なるほど。で……ミラは俺にどうしろと言うんです?」


「そりゃあ、ウチのパーティで戦力的に爆発力があるのはアスト君なんだから、仮にもし目前に危険が迫っていたとしても、即座に対応できるようにしておいてほしい、って話よ」


 ミラに言われて、納得できた。そうなると、俺はアキヤの力を使用する必要があるということだ。


 ……ふと、俺は少しそのことを怖いと思ってしまった。


 明らかにアキヤの力は以前より増している。それは、俺がアキヤの力を使用し続けているからだ。


 もしかすると、いつか、アキヤに完全に体の主導権を乗っ取られてしまうかもしれない……そう思ってしまったのである。


 俺はふと、リアの事を見てしまう。リアは……レイリアの封じられた件を持っている。リアにしてもいつ、レイリアが本気で自分を乗っ取りに来るかもしれないのである。


 きっと、リアもその恐怖をいつも感じているはずなのだ。


 それなのに――


「ん? どうした? アスト」


 キョトンした顔で俺を見てくるリア。


「あ……い、いえ……リア、その……怖くありませんか?」


「ん? 怖い?」


 俺は思わず聞いてしまってからしまったと思ってしまった。いきなりそんなことを聞いても意味がわからなすぎて変な質問だと思うのだろうに……。


 しかし、リアはジッと俺のことを見たあとで、小さく頷いた。


「……怖くない、ということはないな」


 予想外の質問に、俺は思わず驚いてしまう。しかし、リアは優しげに俺に微笑む。


「しかし……安心はしている。私は一人じゃないからな。そして、アスト……それはお前もだ」


 そう言ってリアは俺の肩を叩く。俺は……自分が不安に思っていたことを馬鹿らしく思えてきてしまった。


「……えぇ! そうですね。私達は一人じゃありません」


 リアの言葉に大きく頷いたあとで、俺はミラの方を見る。


「ミラ……大丈夫です。私に任せてください」


 俺の様子を見て、ミラも納得してくれたようだった。


「よーし! それじゃ、みんな集まってね~、転移魔法を使うよ~!」


 ミラの言葉に俺たちは集まり、手をつなぎ、円になる。円の中心には、キリの髪の毛が入った小瓶が置かれている。


「……じゃあ、始めるよ」


 ミラの言葉とともに、俺達の周囲が光に包まれる。転移魔法が開始された。


「……あ、アストさん!」


 と、不意にホリアのことが聞こえてきた。俺はそちらに顔を向ける。


「アッシュ様のこと……どうか、よろしくお願いします!」


 同じパーティにいた時には見たことのない、悲痛な表情のホリアだった。


 正直、ホリアに対しては酷い仕打ちを受けた記憶しかないが……すでに俺たちは動き出したのだ。


 俺が小さくホリアに向かって頷くと同時に、俺たちはまばゆい光に包まれたのだった。

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