第238話 恥を偲んで
「……つまり、アッシュはマギナに唆されて、ホリアとメディに二人を置いていってしまった。その行き先はおそらく……魔王の城だと」
先程の話をメディから聞いたあとに俺は皆の前に戻って話を整理することにした。ホリアは信じられないという顔で俺の話を聞いている。
「しかし……なんでアッシュなんだ? ヤツは一体どうやってアッシュを唆したんだ?」
「……そこです。俺の知っているアッシュはたしかに傲慢な男でした」
と、そこまで言ってホリアに睨まれたので苦笑いしながら先を続ける。
「……ですが、仲間を簡単に捨てるような男ではありません。ですから、それこそ、マギナに操られていたとか……そういう感じじゃないでしょうか?」
俺がそう言うとホリアは少し考え込んだあとで、曖昧に微笑む。
「そ……そうですわね! 勇者様が私を置いてどこかへ行ってしまうなんてこと、絶対にありえませんわね……」
そう言ってもどこか元気がなさそうなホリア。どうやら……ホリア自身もアッシュが自らの意志でマギナについていったことを理解しているようである。
俺としても……アッシュが操られてマギナについて行ったとは思えない。そもそも、操られていたのならば、置き手紙など残さないだろう。
「しかし……これからどうするんだ?」
と、そう言ってきたのはリアだった。
「まぁ……いずれにせよ、魔王の城に行かなければならないでしょうね」
「それはわかっているが……ホリアとメディも行くのか?」
リアがそう言って訊ねるとホリアとメディは顔を見合わせる。と、それからホリアは俺の方に向き直って真剣な目で俺を見る。
と、急にホリアは俺に向かって頭を下げた。
「ホリア……何を……」
「……恥を偲んで申し上げますわ。虫のいい話だとは思っています……ですが……今のワタクシ達にはアナタしか……アナタのパーティしか頼る人がいませんの」
そう言ってホリアは顔を上げる。
「ですから、どうか……どうか、アッシュ様を連れ戻してくださいませ!」
ホリアがそう言って俺に懇願する。アッシュのパーティにいた頃は、まともに回復もしてもらわなかったし、ゴミのような扱いばかり受けてきた。
「……正直、俺はアナタのお願いは聞きたくありません」
と、俺がそう言うとホリアは悲しそうな顔をする。
「お、おい、アスト……そんな言い方……」
リアが心配そうに割って入るが、俺はそれを制しして先を続ける。
「ですが……このパーティは俺のパーティではありません。このパーティのリーダー……勇者はリアです。もし、リアがアナタの願いを聞き入れるなら……俺も協力します」
そう言って俺はリアの方を見る。ホリアもすがりつくような視線でリアを見る。
「リアさん……その……どうか、お願いします……!」
ホリアがそう言うとリアは少し恥ずかしそうに戸惑っていたが、腕を組んで大きく頷く。
「……困っている人を助けるのはアーカルド家の家訓だからな! ホリアよ! 必ずアッシュを連れ戻して来るからな!」
そう言ってリアは誇らしげにそう言う。
こうして……俺たちの魔王の城への遠征は、ラティアを救出するだけでなく、アッシュも連れ戻すという目的が加わったのであった。
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