第239話 どこにいても

「それで……魔王の城にはどうやって行くのよ?」


 メルが今一度本題に戻ってくれた。アッシュの件ですっかり話が反れてしまったが、そもそもはリアから魔王の城への行き方を教えてもらうはずであったのだ。


「えっと……リア。それで、レイリアは何を伝えてきたのです?」


「あー……それが、まぁ、単語しか伝えてこなかったのだ」


「単語? それって、場所の名前とかですかね?」


「あぁ……ただ、『転移の穴』とだけ……」


「あぁ~、転移の穴かぁ~」


 と、そう言ったのは……ミラだった。俺たちは思わず全員でミラのことを見る。


「……え? ミラ……知っているのですか?」


 俺がそう驚きながらも訊ねると、当然だという顔でミラは頷く。


「うん。まぁ、魔法使いなら知っている人多いと思うよ。最果ての洞窟にある転移の穴……その穴は違う世界につながっている、ってね」


 ……そう言われて俺はなんとなく何かを思い出していた。


 いや、正確には、俺の記憶じゃない。俺が持っているアキヤの記憶だ。何か……何かを通り抜けて魔王の城に行った気がする……どうやら、その転移の穴というのが魔王の城へとつながっている道だというのは間違いないようである。


「で、その転移の穴のある洞窟? ってのは、ここからどれだけ離れているの?」


 と、話を進めるべくメルがミラに訊ねる。


「どれだけ、ね……まぁ、普通に歩いていったら1週間はかかるね」


「1週間……えっと、近くに街はないの? そこまでアンタの転移魔法で行けたりしないの?」


「ないね。最果ての洞窟とその周辺は魔物だらけで人が住むような場所じゃないよ」


 そう言ってミラはなぜか俺のことを笑顔で見る。こういうとき……ミラには何か策があるということを俺だってさすがに理解している。


「……何か、策があるんですか?」


 それでも、俺はとりあえずミラにそう訊ねる。ミラはニンマリと得意げに微笑んだあとで、ホリアとメディの方を見る。


「キリちゃんが君たちと別れたのって、いつぐらい?」


 ミラにいきなりそう聞かれて、ホリアは面食らっていたが、目を閉じて時間経過を思い出しているようだった。


「そうですね……確か、それこそ、一週間前ですわ」


「……OK。これで、ウチらは簡単にそこまで行けることが確定したよ」


「……は? 一体どういうことです? どうしてそこまで行けるって……もしかして……」


 と、俺が驚いていると、ミラはニヤリと微笑む。


「あのね、ウチはこれでも妹思いなんだよ? 妹がどこにいても駆けつけることができるように万が一のときのための策はとっているに決まっているでしょ?」


 そう言うと、ミラは懐か何かを取り出した。それは小さな瓶だった。その中に糸のようなものが何本が入っている。


「……それは?」


「キリちゃんの髪の毛。これを触媒にして転移魔法を使えば、キリちゃんが今いる場所までひとっ飛び……どうする? 今すぐ行く?」


 と、ミラにそう言われ俺は頷こうとした。が、その矢先だった。


「……ちょっと、待って」


 そう言ったのはメルだった。メルは急に辛辣そうな表情で俯いている。


「何? なんか用事でも残っている感じ?」


「……まぁ、私としてはどうでもいいんだけど……今ここにいないヤツにどうするか、聞いておきたいのよ」


 メルがそう言って俺に目で合図する。言われてみればサキはいつまで経ってもやって来ていなかった。


 魔王を倒すというのに、果たして魔物であるサキが付いてくるのか……それは俺たちにとっても大きな問題なのであった。

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