第237話 失踪の真相

「えっと……一体何がどうなっているのか、わからないんですが……」


 とりあえず、俺たちはホリアの話を聞くことにした。


「……勇者様が……いなくなってしまいましたの……」


 この上なく悲しそうな表情でそう言うホリア。


「いなくなった、って……アッシュが、ですか?」


「えぇ……こんな置き手紙を残して……」


 そう言ってホリアは懐から1枚の紙を取り出す。俺はそれを受け取り、文面を読んで見る。


「『俺は強くなる』……え? これだけ、ですか?」


 紙に書いてあったのはその一言だけであった。ホリアは悲しそうに頷く。


「えぇ……あぁ……勇者様……一体どうして……うぅ……」


 そう言ってホリアは俯いて泣き出してしまった。戸惑う俺達がどうにもできることもない。


「あ……アストさん。ちょっといいですか?」


 と、そう言ってきたのはメディだった。その表情でどうやら、俺にだけ話したいことがあるようである。


「え、えぇ……えっと、ホリアのこと、お願いします」


 リア達はげんなりとした顔をした。なんとも申し訳ないが、俺は苦笑いで謝るしかなかった。


 俺とメディは少し離れた場所で話をすることにした。


「えっと……なんですか、メディ」


「……その、アッシュさん、急にいなくなったわけじゃないんです」


「え? つまり……何か理由があるってことですか?」


 俺がそう訊ねると、メディは遠慮がちに小さく頷く。


「……絶対ではないんですけど……たぶん、一番の原因はあの時のことだと思うんです」


「あの時?」


「……アストさん達にホリアさんのことを助けてもらった時のことです」


「え……あ、あぁ……でも、それでなんでアッシュがいなくなることにつながるんです?」


 メディは申し訳無さそうに今一度ホリアを見てから、先を続ける。


「……アッシュさん、ホリアさんの前ではいつも通りに振る舞っていたんですが、たまに私に相談してきていたんです。自分は勇者としてふさわしくないんじゃないかとか、自分は弱すぎるとか……」


「え……そんなことを……でも、だからって、急にいなくなるなんて……」


「……そんな時だったんです。あの人が現れたのは」


 と、メディはさらに悲しそうな表情になって昔を思い出すように話を続ける。


「あの人? それは……?」


「その日は……たまたまキリさんがクエストに参加できない日だったんです。なぜか、そんな時に……一人の魔法使いの方が私達に話しかけてきたんです」


「魔法使い……ですか」


「えぇ……その魔法使いの人は少しアッシュさんと何か話していたんです……内容はわからないんですけど……でも、その人と話してからアッシュさんは、なんだか少し様子がおかしくなってしまったというか……それから数日あとのことでした。あの手紙がアッシュさんの家に置いてあったんです」


「……あ! そういえば、キリがいないじゃないですか! 彼女は今アッシュのパーティに戻っていたはずですよね?」


「え、えぇ……彼女は今、アッシュさんを一人で探してます。キリさんいわく、絶対にその魔法使いが何かをしたんだ、と……」


 俺はどうにも嫌な予感がしていた。アッシュの失踪、そして、急に現れた魔法使い……嫌な予感がいていても聞かずにはいられなかった。


「えっと……メディ。その、魔法使いは……女性でしたか?」


「え、えぇ……そうです。女性でした」


「……ちなみに、彼女の名前って覚えてますか?」


 俺がそう言うとメディは少し考え込んだ後で、ポンと手を叩く。


「確か彼女は……マギナ、と名乗っていました」


 その答えを聞いて、妙な納得をしてしまうと同時に……嫌な予感が当たってしまったと落胆するのであった。

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