第235話 特別で必要
「……で、これからどうするの?」
少し目がトロンとしたメルが、俺に訊ねてくる。
俺たちはミラとリアをメルの家にまで連れて行った。その直後、メルが少し俺と二人で話がしたいと言ってきた。
二人共まだ眠っていたし、サキが二人の面倒を見てくれるといったので、気は進まなかったが、メルに付き合うことにした。
で、俺とメルは酒場までやってきていたのである。
「どうするって……そりゃあ、魔王の城まで行く予定ですけど」
「……そうよね。そう言うと思った」
なぜか少し不機嫌そうにしながら、メルはさらに酒の入った杯に口をつける。
なんだろう……メルがなぜか機嫌が悪そうに見える。
「……えっと、メル。どうしましたか?」
「……私、自分が特別だと思ってた」
と、メルは杯を机に置くと、静かにそう言った。
「……でも、今日のリアのことを見ていると……自信なくなってきちゃった」
「え……なぜです?」
「……リアは、私が回復しなくてもどんどん回復していって……私の魔法なんて必要ないレベルだった……それを見てたら、なんだか、ね……」
そう言って、メルは自虐的な笑みを浮かべる。
「ミラだって、私にはできないことばかりできる……アストは……言わなくてもいいわよね。そう考えたら、私って……このパーティにとって必要なのかな、って……」
メルがそう言って俺のことを見る。というか、メルがそんなことを言ってくるなんて俺は予想外だった。
「……えっと、それ、本気で思っているんですか?」
俺は思わず訊ねてしまった。と、メルも驚いた顔で俺を見る。
「……あのねぇ。思ってなかったら、こんな酒場でアンタに愚痴らないわよ」
「まぁ、たしかにそうですね……でも、メル、アナタは勘違いしていますよ」
「え? 勘違い?」
俺はそう言ってから肩をすくめて、腕輪を見せる。
「俺は何もできません。本当に強いのはこの腕輪の中にいるアキヤです。むしろ、このパーティで一番不必要なのは、俺だって言ってもいいでしょうね」
「そんな……でも、アンタがいなかったら……」
「いいんです。俺も思いました。今日のリアを見ていて。この腕輪……アキヤの力といずれ決着をつけなくちゃいけない時が来る……自分は情けないな、って」
俺はそう言ってから自然とメルにほほえみかける。
「メルにそんなことを言われたら、俺の立つ瀬がなくなっちゃいますよ。だから、そんなこと言わないで下さい。メルはこのパーティにとって……少なくとも俺にとっては必要ですよ」
俺がそう言うとメルは少し恥ずかしそうにしながら、顔をそむける。
「……アンタね。そういうところよ、アンタの悪いところは……!」
「え? 俺、何か悪いこと言いましたか?」
なぜかメルに睨まれる俺。良いことを言ったと思ったのだが……間違っていただろうか?
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