第234話 決死の行方
そう叫ぶリアのことを、レイリアは恨めしそうに睨んでいたが……しばらくすると、なぜかレイリアは剣を握っていた手を放す。
「……なんのつもりだ?」
と、リアが怪訝そうな顔で訊ねる。
「……わかった。お主の言う通りにしよう」
レイリアはそれまでの態度が嘘であるかのように物分りよくそう言った。リアも驚いているようだった。
「……妾はこの剣の中に戻る。そうすればこの体の持ち主である娘の魂は戻るだろう」
そう言うとレイリアはなぜか俺のことを一瞥する。
その視線……この前の約束、つまり、レイリアに新しい体を渡すという約束……それを忘れてはいないだろうな、というレイリアの威圧に思えた。
俺は何も言わずにレイリアを見返していた。
「……それでいいな? リア」
「あ、あぁ……ミラを返してくれるなら、それでいい」
リアのその言葉とともに、いきなりミラの体から膝から崩れてしまった。と、それを見ると同時に、腹部に剣が刺さったままのリアもその場で倒れてしまった。
「リア! め、メル……」
「ほら、さっさと行くわよ」
メルはさすがというべきか、かなり落ち着いていた。そして、俺たちはそのまま倒れた二人のもとに駆け寄る。
「……ミラは特に外傷はないみたいね」
メルがそういう。言われてみれば結局、レイリアは一撃もリアの攻撃を受けていないのだから。
「問題は……リアね」
リアの腹部には剣が突き刺さっている。これをどうするか……
「……メル。ど、どうすればいいんですか?」
我ながら情けないながらも、メルにすがるようにそう訊ねてしまう。しかし、メルは落ち着いた様子で俺のことを見る。
「……アスト。落ち着いて聞いて。ゆっくり……リアに突き刺さっている剣を抜いて」
「え……で、でも、そんなことをしたら……」
しかし、メルは真面目にそう言っているようだった。
「……大丈夫。それよりも、アンタはその後に起きることに驚きすぎないようにね」
メルの意味深な言葉の意味がわからなかったが、俺は言われた通りにするしかなかった。
俺はリアに突き刺さったままの、吸魂の剣を握る。
(忘れるなよ、アスト)
と、剣を通してレイリアの意志のようなものが聞こえてきた。俺は返事をせずにそのまま強く剣を握る。
ゆっくりと……だが、着実にリアの腹部から剣を引き抜いていく。
血が溢れ、どうにも、リアはこのまま死んでしまうのではないかと俺は不安だったが……案外簡単に剣は引き抜けた。
そして、リアの腹部には大きな剣の傷が……すでにそれはもう大分小さくなっていた。
俺が剣を引き抜いた瞬間から、傷はみるみるうちにふさがっていき、その後……リアの腹部にはそもそも傷などなかったかのように、元通り、キレイになってしまったのだった。
「……これほどの治癒力は見たことないわね」
メルも感心したようすでそういう。俺も何も言葉が出なかった。
「……とにかく、二人を一度私の家まで運ぶわよ」
「えぇ……でも、大丈夫ですか? メル、ミラを背負えます?」
と、俺がそういうとメルはニッコリと微笑む。
「まさかとは思うけど……アストは、か弱い私に女の子を背負わせるような男じゃないわよね?」
メルの言葉に俺は理解する。結局、俺が背中にミラを、そして、リアをお姫様だっこのような形で抱えたままで、メルの家へと戻っていったのだった。
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