第229話 魔力の倍増

「え……わ、私ですか? 私は今回は何もできないと思いますけど……」


 困惑した様子でサキは俺とメルに対して首を横に振っている。


「えぇ。アンタが戦闘面で今回活躍できるなんて全然思っていないわ。戦闘面では……ね」


 そう言ってからメルは、まるで獲物を見る肉食動物のような視線でサキを見る。


 なんだ……メルは一体サキに対して何をさせようとしているのだろうか。


「ねぇ、サキ……サキュバスって、人間から魔力を吸い取るのよね?」


 と、いきなりメルはサキにそんな質問をした。そんなこと、俺でも知っているが……なんでそんな確認を今この場所でするのだろうか?


「え……えぇ。私達は、そういう魔物ですから……」


「それって……どういう方法で?」


「それは、まぁ、一番簡単なのはキスとかそういう肉体の摂食を伴う方法ですけど……なんでそんなこと聞くんです?」


 すると、ニッコリと、だが、威圧感のある笑顔でメルはサキを見る。


「じゃあ……逆にその魔力を、そういう方法を使って、人間に返却するってことも、できるの?」


 メルに見つめ続けられていたサキは、メルが何をしようとしているのかわかったようである。


「あ……アストさん……」


「できるみたいね。じゃあ、さっそく試しましょう」


 と、そう言ってメルはゆっくりと立ち上がった。そして、そのまま少しずつサキとの距離を詰めていく。


「アストさん!」


 助けを求めるように俺を見て、泣きそうな顔をするサキ。サキュバスが魔力を吸われることに怯えている……俺は苦笑いしながら立ち上がる。


「えっと……じゃあ、メル。魔力の時間継続の問題は……メルに任せます」


「えぇ。で、レイリアの方はどうするの?」


「それは……俺がどうにかします」


 実際俺にも当てがあるわけではない。ただ……おそらく、奴の方から姿を表す。なんとなくだがそんな確信があった。


 だとすると、俺がいるということが目立ってわかる場所……そういう場所に俺はいる方が良いのだろう。


「そう。じゃあ、そっちはお願いするわ」


「えぇ。えっと……メル。本当に大丈夫ですか? その……サキが怯えていますけど」


 そう言って俺はサキを見る。確かにサキは部屋の隅で小さくなっている。


「……私だって、他に方法があるならそれがいいけど……これしかないならしょうがないって。ほら、サキ。そこから動かないで」


 そういうメルだが……どことなくその表情は迫真さがあるものだった。


「え……あ、アストさん! お、置いてかないで!」


「大丈夫よ、サキ……悪いようにはしないって」


「い、いや! メルさん、こっち来ないで、そんな私まだ、心の準備が――」


 メルの家を出た時、サキの力が抜けるような声が聞こえたが……俺は振り返らなかった。おそらく、これでメルの魔力はサキの協力もあって、倍増するはずである。


「あとは……レイリアだな」


 俺は一人そうつぶやくと、夜の街へ歩いていったのだった。

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