第228話 思い込みの強さ

 それから、俺とメルはとりあえず気絶状態のリアをメルの家へと運んでいった。


 家で待機していたサキが驚いた様子で対応してくれたが、なんとか、リアをメルの家のベッドに寝かすことができた。


「……それにしても、アンタ。わざとでしょ」


 リアをベッドに寝かすと、すでに辺りは暗くなってしまっていた。俺は帰ろうとしたのだが、話があるといってメルに引き止められたのである。


「え……な、何のことです?」


「とぼけなくていいわよ。アンタ……どれくらいの力を使えばこんなことになるかなんてわかっているんでしょ? でも、あえてアナタは限界まで力を引き出して、あのクソ勇者に身体の主導権を引き渡した……違う?」


 そう言いながらメルは机の上に置いたグラスの上にワインを注いでいる。サキは少し離れた場所で、俺とメルの会話を不安そうに見ている。


 ……どうやら、誤魔化したところで、意味がないようである。俺は降参したと言う感じでメルに小さく頭を下げる。


「……えぇ。わかっていました」


「そうでしょうね……まぁ、結果としてリアにとっては良い修行になったわけだけど」


 そう言ってメルは口の中にワインを流し込みながら眠っているリアを見つめている。


「しかし……リアの回復力がそこまで異常とは……思っていませんでした」


「……そうね。たぶんリア自身もそれを理解していないはず」


「え? リア自身も、ですか?」


「そう。リアとしてはあの回復はすべて私の『リジェネレイト』のおかげだと思っている……実際、私の魔法があの子の回復力を底上げしたのは事実だけど、私の魔力が切れかかっているのにあの子の傷はどんどん回復していった……それをリアは自覚していないでしょうね」


「その……私は詳しくはわからなんですが……リアの治癒能力はどの程度すごいものなのですか?」


 思わずずっと疑問に思っていたことを俺は訊ねる。先程、剣が突き刺さった腹部の傷が一瞬で治ってしまった……にわかには信じがたい事実である。


「……そうね。仮に、あの子の腕が吹き飛んだとしても、足が切断されたとしても……元に戻るまでに一分かからないでしょうね」


「え……そ、そんな……」


 思わず俺が絶句してしまうのに対し、メルは呆れ顔で戯けてみせる。


「まったく……これじゃあ、私の出番がないじゃない。とんでもない勇者様ね」


 そう言ってからメルは今一度ワイングラスに口をつける。


「まぁ……アンタもわかっていると思うけど、リアはいろんな意味で思い込みが激しい方よね。自分がとても弱いと思っている……それに、今回の件だって、私の魔法があったからこそ、自分の治癒能力が高まったと……まぁ、実際に高まっていたとは思うけど」


「え、えぇ……それは、つまり……」


「そう。仮にあまり意味がないとしても、私はリアにリジェネレイトをかけ続ける必要がある。仮に……ミラの身体を取り戻すのなら」


 そう言ってメルは鋭い目つきで俺を見る。俺も何も言わずにただ、小さくうなずいた。


「……ちなみに、メルはどれくらいの時間、リジェネレイトをかけつづけることができるんですか?」


「そうね……今日のでざっと15分くらいだったかしら。さすがに、あのレイリア相手に、リアがそんな短期決戦を出来るとは思えないわね」


「……そうですか。では、どうすれば……」


「もちろん、すでに方法は考えているわ」


 と、そう言うとメルはなぜかニヤリと微笑み、少し離れた場所にいるサキを見るのだった。

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