第227話 驚異の回復力

「な、なんなんだ、お前……」


 アキヤも驚いているが……俺も驚いてしまった。


 リアはどうして立っていられる。アキヤは本気で攻撃していたはずだ。それをまともに食らって立っていられるはずがないのだ……。


「リア……さっさと、なんとかしなさいよ……」


 と、リアの隣でフラフラになりながら近づいてくるのは……メルだった。


 おそらく「リジェネレイト」の長時間の使用で魔力が尽きかけているのだろう。


「……あぁ、大丈夫だ。さっさと終わらせる」


 そういってリアは剣を構える。それと同時にみるみるうちに傷が回復していく。そして、それこそ、最初から傷なんてなかったかのように、リアは無傷になった。


「な……なんだそれ! おかしいだろ!」


 ……俺はなんとなくだが理解できた。


 リアは元々異様に回復力があった。どんな大怪我をしても次の日には回復しているくらいに。


 それがメルの「リジェネレイト」の魔法を受けてさらに強化された。それこそ、どんな傷を受けても一瞬で傷が回復するかの如く。


 つまり……リアは攻撃を受けていないのではない。受けているのだが、一瞬でその傷が回復しているのだ。だからこそ、アキヤの攻撃をすべて見切っているように見えたのである。


「ふ、ふざけんじゃねぇ! 今度こそ切り刻んでやる!」


 おおよそ勇者らしからぬ言葉を吐き、アキヤはリアに向かっていく。アキヤはそれに気付いていない。リアの異常な回復力に。


 しかし、リアがアキヤの攻撃を見切っていないとすると、確実にアキヤの動きを捉えるためには……


(……だ、駄目だ! リア!)


 俺がそう感じた瞬間には、すでに遅かった。アキヤはリアの身体に向けて剣を突き刺す。それをリアは……避けることなく受け止めた。


「かかったな……!」


 腹に剣を突き刺されているというのにリアはニヤリと微笑む。


 そして、そのまま、剣を持っているアキヤの腕を掴む。


「なっ……! て、てめぇ! 離しやがれ!」


 アキヤがリアから離れようとするが……リアはまるでビクともせずに、アキヤの腕を掴んだままである。


「離さない……! その体……アストに返すんだ!」


おそらく、今も剣で突き刺されている矢先から、リアは回復しているのだろう。


「リア! もう限界!」


 メルがそう叫ぶ。おそらくメルはリアに加勢するために通常よりも多くの魔力を「リジェネレイト」に使っているのだろう。如何にリアといえど、メルの「リジェネレイト」がなくなれば回復力も落ちてしまう。


「わかっている! さぁ! 返せ! さもなくば……!」


 そう言ってリアは掴んだ手とは反対の手で、剣を取る。そして、アキヤの喉元に向けて思いっきり剣を突き出した。


「ひっ……!」


 勇者とは思えない情けない悲鳴を短く残した後……俺の意識が身体に戻った。


「り、リア!」


 俺は即座に叫ぶ。それと同時にリアの剣先が、俺の喉元の直前で止まる。


「……アスト?」


「え、えぇ! 戻りました! もう大丈夫です!」


 俺がそう言うと同時にリアはそれまでの凛とした表情が和らぎ、優しく微笑む。


「……良かった。元に戻って……」


「リア……? リア!」


 リアはそのまま気絶してしまったようで、腹に剣を突き刺されたままで、倒れてしまう。


「め、メル! 大丈夫ですか!?」


 俺は叫ぶ。と、メルはフラフラになりながらも、こちらにやってくる。


「……アンタねぇ。戻ってくるのが……遅いのよ」


「申し訳ない……! それよりも、リアが……!」


 と、リアはなぜかリアの腹に突き刺さった剣を見ると、それを思いっきり引き抜く。


「なっ……! め、メル! 何を……!」


「……よく見なさいよ」


 メルがそう言ってリアの腹部を指差す。と……先程まで剣が突き刺さっていたはずの箇所は、みるみるうちに傷がふさがっていくかと思うと……あっという間に無傷の状態に戻ってしまった。


「え……こ、これは……!」


「……リジェネレイトを使っていて途中で思ったわ。明らかにリジェネレイトで治癒できるレベルじゃないダメージを食らってもリアの傷はすぐに治った。もしかして、と思ったから剣を抜いたのよ」


 そう言って、メルは今一度リアの事を見る。


「……私達のパーティの勇者様は弱いなんてことないわ。それこそ……魔王だって殺せないかもしれないわね」


 驚いているような、嬉しそうな不思議な表情でそう言うメル。改めて俺の所属するパーティは不可思議な面々しかいないのだということを理解したのだった。

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