第220話 私の戦い

「……勝負? 何を言っている?」


 さすがのミラ……ではなく、ミラの身体を乗っ取ったレイリアも困惑しているようだった。


「……言ったとおりだ。私と勝負しろ」


 しかし、リアはまるで譲る気配はない。俺も何も言わなかった。


「……まったく。ラティアといい、お前といい……どうしてお前達は妾に似なかったのだろうな。合理的でないこと、無駄なこと……そういうことが好きなのだな」


 そう言ってからレイリアは俺の方を見る。


「……お前はどう思う。アスト」


「……俺はリアと同じ気持ちです。リアがしたいようにさせてあげたいです」


 リアが俺の方を見て少し嬉しそうな顔をしたが、すぐにレイリアの方を向き直って鋭い目つきをする。


 俺たちの反応がまるで理解できないことを悟るとレイリアは呆れ顔で頬を触る。


「もう良い……大方、お前たちはこの魔法使いの身体を取り返したいのだろう?」


「……違う」


 と、リアの言葉にレイリアは驚く。俺は……なんとなくリアがそう言うと理解できていた。


「違う? そんなわけないだろう? 大体、この魔法使いがいないと魔王の城に行けないと、お前たちは思っているのだろう?」


「……あぁ。だが、私は……ミラを取り戻すよりも果たさなければいけないことがあるのだ。ミラに言われたからな……証明しろ、と」


 リアとまるで意思疎通ができていないことを理解すると、レイリアは再度呆れ顔をしていた。


「……意味がわからない。お前はどうしたいのだ」


「私は……お前と戦う。そして……勝ちたい」


 俺の隣でリアははっきりとそう言った。レイリアは俺とリアのことをジッと見ている。


 俺の隣のリアは……微かに震えていた。それが恐怖なのか、武者震いなのかはわからないが……リアにとってレイリアがどういう存在かは、俺だって理解できている。


 しばらくの間、レイリアは黙ったままで俺とリアを見ていたが、しばらくするとなぜか納得したかのように小さく頷いた。


「わかった。では、かかってくるが良い」


「え……あ、あぁ……言われなくても……!」


 リアはそう言って剣を抜く。


「リア……本当に大丈夫ですか?」


「……アスト。黙って見ていてくれ。これは……私の戦いだ」


 リアは今一度剣を強く握る。そして、前方の、仲間の姿をした最強の吸血姫を睨む。


 俺も理解した。これはリアの戦いなのだ。たとえ、目の前でどんな光景が繰り広げられていても……俺は黙って見ていなければいけないのだ、と。


「どうした? かかってこないのか?」


「う……うわぁぁぁぁぁ!」


 リアは叫びをあげながら、一気にレイリアの方に突っ込んでいく。


 そして、そのままレイリアめがけて大きく剣を振り上げ、そのまま振り下ろす……ように見えた。


 しかし……リアの剣はレイリアの目前でピタリと止まってしまったのだった。

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