第215話 どこにもない場所
「で……魔王の城ってのはどこにあるの?」
酒場で集まった俺たちはそんなことを話し合っていた。
メルが困り顔でそう言った。いや……俺は城の場所をわかっている。
正確には俺ではなく、俺がもっているアキヤの記憶の中に魔王をの城の場所を覚えているのだ。
だけど……詳細なところが思い出せないのだ。
「……すいません。思い出せないんですよね」
苦笑いしながらそういうことしかできなかった。メルは小さくため息をつく。
「……まぁ、そんな簡単に行くとは思わないわよ。なんとなく、アンタの記憶に何か……鍵のようなものがかかっている気がしたわけだし」
「え? そうなんですか?」
「そりゃあ、そうでしょ。あのルミスとマギナがさすがに何も対策していないなんて思えないでしょ?」
……なんだろう。確かにメルの言う通りなのだが……どうにも俺には引っかかるものがある。
俺の記憶に鍵をしたのは……ルミスやマギナではない気がするのだ。それは完全に俺の直感でしか無いのだけれど。
「……えぇ、そうですね」
釈然としない何かを感じながらも俺は話を先にすすめることにした。
「まぁ、アスト君の前世の記憶が頼りにならない可能性も考えてましたけど……ウチらにはもう一つ心強い味方がいるよね?」
そう言ってミラは隣に座っているサキのことを見る。見られたサキは気まずそうに俺のことを見る。
「……えっと……私もあまりお役に立てませんよ。別に魔物が全部魔王の城を知っているわけではありませんので。で、その……私も詳しく走らないんですよ」
「でも、大体の場所くらいの噂くらいは、ウチらよりは知っているんじゃない?」
ミラが2つの瞳で思いっきりサキのことを見る。サキは気まずそうに顔をしかめる。
「え、えぇ……それくらいは……でも、眉唾な噂ですし……」
「眉唾な噂? なにそれ?」
しばらく間を置いてから、サキは話を再開する。
「……魔王の城は……この世界には存在していない、と」
サキは気まずそうにそう言った。この世界に存在していない……どういうことだ? それこそ、別の世界にでも存在しているってことか?
いきなりでてきたそんな言葉に俺たち全員黙ってしまった。
「……あぁ、そういう感じなんだ」
初めにそう言ったのは、ミラだった。
「……え? そういう感じって、何?」
俺も感じた疑問を、メルも同様に思っていたようで、メルがミラに尋ねる。
「え? 違う世界っていうか、違う空間? そういう感じじゃないの?」
「……アンタ軽く言っているけど……そんなことありえないでしょ?」
「……いや、できるよ?」
ミラは軽くそう言う。俺たちは思わず顔を見合わせてしまう。
「えっと……つまり……それは魔法でできるってことですか?」
「うん。できなくはない、って感じかな。ウチも聞いたことがある程度だし。そうなると……あのマギナがそれをやったのかな? 意外とすごい人だね、あの人」
簡単にそう言うが……問題は一気に大きくなってしまった。
そもそも……この世界に存在しない魔王の城をどうやって探すというのだ。俺たちは次なる目標としてもかなり困難な目標を立ててしまったようだった。
と、俺たちが困惑していると、バンと机を叩く音……リアだった。
「……ミラ。私が聞きたいのは一つだけだ」
「……何かな、勇者様」
「魔王の城とやらに行くことは可能なのか? そして……姉上を開放することはできるのか?」
しっかりとしていたが、その瞳の奥はどことなく不安そうだった。しかし、ミラはリアにニッコリと微笑む。
「……他の魔法使いがどうかは知らないけど、ウチはこのパーティの魔法使いだよ? そんなの、できるに決まってんじゃん」
そう言ってミラは頼もしく言うのだった。
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