第213話 すべきことはただ一つ

「……これが、ラティアの……力」


 俺は間抜けにそうつぶやきながら一変してしまった当たりの光景を眺める。


 当たりは完全に氷の世界となってしまっていた。正確には、ラティアが飛び出していった先……その部分を中心に街全体が凍りついているのである。


 そして、塔を出た先……扉の先には一際大きな標柱聳え立っていた。


 その前に……リアが泣きながら跪いている。


「う、うぅ……姉上……」


 リアがひざまずくその先には……氷柱として氷漬けになっているラティアがいる。


 ラティアが使った魔法は自身まで街全体を凍りつかせる代わりに、自分自身も凍りつかせてしまうものであったようである。


「……さすがね。こんなこと、人間の魔術師じゃできないわよ」


 メルが悲しそうな顔をしながらも驚きながらそう言う。


「うん……そもそも、自身も氷漬けになる魔法を、人間は平気で使えないけどね」


 そう言って、ミラも氷漬けになってラティアを見ている。しかし、おかげで完全に暴徒溶かした街の住民も氷漬けになったようである。


「……この状態はいわば冷凍保存ね。魔物の魂は氷漬けのままならいずれ、消滅するはず……つまり、あの外道サキュバスを倒せば……ラティアも魔法を解除して良くなるわ」


 メルは怒りをにじませてそう言う。俺も同意見だった。


 しかし、それでもリアは氷柱の前で泣き続けている。俺は思わず近寄っていってしまう。


「……リア」


「……なぜ……なぜ姉上がこんな目に会わなければならないんだ……何か他に方法はなかったのか!?」


 リアが俺に詰め寄ってくる。俺は視線を地面に落としながら首を横にふる。


「……リア。本当に申し訳ないとは思います。ですが……あの時はどうしようもなかったのです」


「……あぁ、そうだよね。わかっている……わかっているが……自分が……情けないのだ……」


「え? 自分が……?」


 俺は思わずリアに聞き返してしまう。


「……私は今回何もできていない。メルも、ミラも、姉上も、サキだって……それなのに、私は何もできていないんだ……!」


「リア……そんな……」


「……なぁ、アスト。はっきり言ってくれ。私は……このパーティに存在してよかったのか? こんな力不足の私が――」


 と、思わず俺はそれ以上先を言おうとする前に、リアの肩を掴む。


「リア。それはリアのセリフではありません。俺の……セリフです。こんなことになっているのは俺の転生前……アキヤの力がすべての原因です。だから……こんな俺こそ、このパーティにいていいのか……俺はそれをこのパーティのリーダーであるリアに聞きたい」


 俺がそう言うとリアは少し驚いていたが、それから涙を拭い、今一度氷柱になってしまったラティアを見る。


「……あぁ、そうだな。すまない。こんなところ、姉上に見られていたら恥ずかしいな」


 そう言ってからリアは俺のことを真っ直ぐな視線で見る。パーティに加入した時と変わらぬ真っ直ぐな視線で。


「……姉上がこの魔法を解除できるように、そして、アストが……転生前の因縁から脱局できるようにするために、私もお前も……このパーティにいていいんだ!」


 リアのその言葉に俺は大きく頷く。リアはもう笑顔だった。


 そうだ。立ち止まってはいられない。ラティアを開放するためにも、俺たちがすべきことはただ一つなのだから。

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