第209話 特別と平凡

「ん……あれ……う、ウチは……」


 起き上がったミラは周囲を見回しながら俺とメルのことを見る。


「ミラ……大丈夫ですか?」


「え? アスト君……って、ウチ、さっき……というか、今どうなって……」


 と、起き上がったミラに対していきなりサキが口づけをする。ミラは驚いて呆然としているが……どうやら、なんとかルミスの心酔への対抗策は整ったようだった。


「……えっと、今ってどういう状況? というか、ウチ……アスト君に殺されたよね?」


 そう言われるとそのとおりなので、俺は苦笑いをするしかなかった。代わりにメルがミラに説明をしてくれるようである。


「アンタはあの自称女神のルミスって奴の術中にハマったの。で、未だにあの二人は絶賛術の影響下にあるってわけ」


 メルがそう言ってリアとラティアを指差す。と、先程からなぜかルミスは黙ったままである。


「……なるほど。だから、一度ウチを殺して術の影響下から除外しようとした、と」


「え、えぇ……メルの提案だったのですが……」


 俺は申し訳ないと思いながらもメルの方を見る。しかし、メルは悪びれている様子は少しもなかった。


「えぇ。だって、それしかアンタをこっち側に戻る手段思いつかなかったし」


「……フフッ。そっか。流石だね」


 それだけ言うと、状況を飲み込めたのか、メルは立ち上がって杖を構える。


「……つまり、女神ルミスっていうのは相手を操ることしか芸がないんでしょ? だったら……操られている人の動きを止めれば終わりだね」


 そう言ってミラが何やら詠唱したかと思うと、それまで身構えていたリアとラティアはその場に倒れてこんでしまった。どうやら「パライズ」の呪文をかけたらしい。


「そ、そんな……なんで……」


 その光景を見て、ルミスは膝をついて力なく呟いた。倒れてしまったリアとラティアを介抱しながら、俺たちをルミスに近づいていく。


「で……アンタはこれからどうするの?」


 そう言ったのはメルだった。いつもより、どことなく怒っているように感じる。


「なんで……なんで……蘇生魔術なんて……使えるはずないのに……この私だって使えなないのに……」


 信じられないものを見るかのような目でメルを見るルミス。と、メルはなぜか俺に得意げな顔を見せたあとで、ルミスの方に顔を向ける。


「簡単な話よ。私は特別なヒーラーで、アンタが平凡なヒーラーだって話」


 メルが勝ち誇った調子でそう言うとルミスはしばらく黙ったあとでなぜか半笑いを浮かべる。


「あ、あはは……そっか。私……やっぱり平凡なんだ……あはは……」


 と、壊れてしまったかのように笑い続けるルミス。俺とメルは少し恐怖を感じながら、思わず顔を見合わせる。


「……えっと、大丈夫なのかしらね?」


「え、えぇ……あの……ルミス? その少しお話が――」


「私は平凡なんかじゃない!」


 と、そう言うとルミスはいきなり立ち上がり。そのままいきなり走り出した。そして、俺達が入ってきた部屋の扉を開け、そのままその先へ姿を消す。


「……あ! アイツ、逃げたわよ!」


 あまりのことに呆然としてしまったが、メルの言葉でルミスが逃亡したことを理解する。しかし、俺はその後を追わなかった。


「ちょっと! 追わないの!?」


「……えぇ。今はリアとラティアの具合を確認してからにしましょう」


 俺がそう言うと確かにそれもそうかと言う感じでメルも頷く。


 それに……今のルミスの様子は何かおかしかった。


 あの目……どこか狂気じみていた。まだ負けていない……そんな感じを受け取れたのだ。


 俺は嫌な予感を覚えながらも、とりあえず、パーティメンバーの無事を確認するのだった。

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