第208話 無茶なこと
「……無茶なこと、ですか?」
既に操られているラティアとリアが近づいてきているため、あまり余裕はないようである。しかし、メルの話を聴いてみる価値はある。
「……えぇ。ちょっと耳貸しなさい」
言われるままに、メルに俺は耳を近づける。と、メルは俺に自身の考える「無茶なこと」を囁いた。
「……なるほど。しかし……それは……」
「何? 私の作戦に文句あるの?」
メルは不満そうな顔をする。メルの言うことは確かに……可能性としては有り得そうなことであった。実際、メルの言っている通りでしかこの状況を打開できないような気もする。
だけど……本当にそれが成功するかどうかは疑問だった。そして、そもそも、その通りにして俺たちの目論見通りに事が進むのかも……疑問であった。
「……いや、でも、やってみないとわかりませんよね」
俺がそう言うと、メルも嬉しそうに微笑んだ。
「……いつまでもコソコソやってないで、いい加減死んでくれませんか? 迷惑なんですよ!」
ルミスがそう言うと同時に、リアとラティアが俺の方に突っ込んでくる。
「メル! 離れていて下さい!」
俺がそう言うと同時にメルは俺から距離を取る。と、ほぼ同時に、リアが俺に切りかかってくる。
俺は自身の剣でそれを受け止める。しかし、そうしている間にもラティアの氷の魔法が飛んでくる。
俺はそれをなんとか直前に回避……そのまま今度は今一度ルミスの方へ体勢を立て直す。
ルミスは不敵な笑みを浮かべている。それもそうだろう。ルミスの近くには既に呪文を唱え始めているミラがいる。いざとなればミラの魔法で守ってもらえると、ルミスは確信しているのだ。
俺はそのままにルミスの方に突っ込んでいく。それと同時に、ミラの杖が俺の方に向けられる。
……その瞬間を待っていた。俺は一気に方向転換する。
「は……?」
ルミスの疑問に満ちた声が聞こえる。そのまま俺はミラの方に突っ込んでいく。
ミラの魔法は……発動までまだ時間がかかりそうだった。俺は剣を握る手に力を込める。
ミラの顔が見えてしまった。一瞬、脳裏にミラが微笑む顔が浮かぶ。
……違う。あの笑顔を今一度見るためにこそ、俺は――
「ミラ……すいません……!」
そう呟きながら、俺はミラの方に向かって剣を突き出す。
グサリ、と肉に刃が突き刺さる感触が、剣を通して伝わってくる。
「あ……な、なんで……?」
ミラが目を丸くしてそう言う。どうやら正気に戻ったようである。
しかし、それと同時にミラはそのまま倒れてしまう。
それもそのはず、俺は……ミラに向かって剣を突き刺したのだ。
「……ふ、フフ……あははは! やっちゃいましたね!? ついに打つ手なしで仲間割れですか!? さすが、あの勇者アキヤの力を受け継いでいるだけありますね!」
ルミスが嬉しそうに高笑いしながらそう言う。というより、この感じだと……ルミスはこうなることを望んでいたのだろう。
俺は、血まみれになったミラの身体を抱え、そのままメルの方に戻っていく。
「なんですか? 今更ヒーラーの治癒魔術で回復しようっていうんですか? 無理ですよ! どんなヒーラーだって、一度死んだ人間を蘇生させることなんて――」
「できるわよ」
と、ルミスの言葉を遮ったのは、メルだった。ルミスは怪訝そうな顔でメルを見る。
「……はぁ? アナタ、何言って……」
しかし、ルミスの表情が段々と強張っていく。
メルが使用した蘇生魔術は……間違いなく、一度絶命したミラに、今一度命を与えようとしていたのであった。
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