第207話 打つ手はまだあり
「さ、サキュバス……? ルミスが、ですか?」
俺は再度、サキに聞き返してしまう。しかし、サキは確かにゆっくりと頷いた。
「……えぇ。間違いなく、サキュバスです。そうでなければ説明できません」
「それは……どういった点で確信したんです?」
俺がそう言うとサキは今一度ルミスの方を見る。ルミスはなぜか忌々しげな表情でこちらを睨みつけている。
「一つは、この心酔の力です。あまりにも強すぎるこの心酔の力……私は最初、意味がわかりませんでした。仮に人間だとすると、一体どうやってこんな力を使っているのか、と」
「それは……私が神だからですよ。愚かなサキュバスさん」
ルミスがサキにそう言う。すると、サキはなぜかニヤリと微笑んだ。
「次に思ったのは……今のアストさんの攻撃です。あんな素早い攻撃……しかも、自分のすぐ直前まで迫ってきていた攻撃を避けることができた……あんなの人間じゃできません」
サキはまたしても、なぜか挑発するようにルミスのことを見る。ルミスは腹立たしげに今一度サキの方を見る。
「だから……言っているでしょう! 私は神なのです! 神だからこそ! 先程の攻撃も避けることができたのですよ!」
なぜかムキになってそういうルミス。しかし、サキは今まで以上に満面の笑みを浮かべて先を続ける。
「そして……三点目。今のでわかりました」
「……今の? 一体なんのことを言っているんです?」
「アナタ……なぜ、私のことがサキュバスだってわかったんです?」
サキがそう言うとルミスはしまったと言ったような今更気づいたような顔をした。
そういえば、サキ曰く、サキュバスやインキュバスは同族のことを感知できるような能力があると言っていた……そうなると、サキをサキュバスであると把握できたルミスは……
「そ、それは……アナタが心酔の能力をその二人に使っているからでしょう!?」
「なぜ、私は心酔の能力を使っていると? それがわかるのもサキュバスだけのはずですが?」
しばらくの間、ルミスは黙ったままで俺たちの事を見ている。と、いきなり、なぜか引きつったような笑みを浮かべる。
「……えぇ。そうね。確かに私はサキュバス……サキュバスかもしれない? だから、何? 仮にそうだとしても、今のアナタ達がこの状況をどうにかできるわけ?」
ルミスがそう言うと、現在、ルミスの影響下にある三人がこちらに躙り寄ってくる。確かにルミスの言う通り、今はルミスがサキュバスか女神かどうかはそこまで問題ではないのだ。
「……アストさん、メルさん。これでわかったんじゃないですか?」
しかし、サキは俺の方を見て得意げな顔をする。
「え……わかったって……何が?」
メルが怪訝そうな顔で聞き返す。
「ルミスは……神じゃありません。正確には私もよくわかりませんが、限りなくサキュバスに近い存在……つまり、魔物なんです。魔物だったら……冒険者のお二人なら倒せるはずです。違いますか?」
サキがそう言って俺たちを見る。その目は……期待している目だった。そんな目で見られてしまうと……俺たちも期待に沿わないわけにはいかなかった。
「……そうね。アスト、ちょっと、無茶なこと、やってみない?」
メルがそう言って目で合図する。どうやら……まだ打つ手は残っているようであった。
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