第206話 わかったこと
俺はそのまま一直線にルミスの方に向かって疾走った。
ルミスも俺の動きが予想外だったのか、怪訝そうな顔をする。しかし、すぐにリアとラティア、そして、ミラが俺に襲いかかってくる。
ミラの魔法は……動いていれば避けられる。というよりも、ミラは普段、相手が油断している時に魔法をかけてくるからこそ当たるのだが、今の俺は動いている。虚ろな目をした操り人形のようなミラでは俺に魔法を当てることはできない。
そして、リアに関しても直線的に向かってくるだけだ。スピードは確かに普段のリアではできない動きだが……かといって、見切ってしまえば簡単に避けることができる。
問題は……ラティアだ。氷の魔法は範囲攻撃、動いていても氷が俺に迫ってくる。しかし、いつものラティアならおそらくもっと効果的に、かつ、相手を追い詰めることができるはずだが、やはりこちらもどこか精彩を欠く動きである。
だからこそ、俺はその攻撃の間隙を縫って、ルミスの懐にまで到達することができたのだが。
「なっ……!?」
ルミスも俺のスピードが予想以上だったようだ。慌てた様子で俺から距離を取ろうとする。
しかし、相手はヒーラー、ここまで距離を詰めてしまってはもはや逃しようがない。俺は剣を振り、まずは一撃、ルミスに攻撃をしようとした。
……が、剣はルミスに届かなかった。ルミスは人間とは思えないほどの速さで俺と距離をとった。
俺は……間違いなくルミスとの距離を詰めることができたと思った。だが、まるでそれが一瞬にして覆ったようで、ルミスと俺の距離は離れてしまった。
と、呆然としている俺にリア、ラティア、ミラからの攻撃が飛んでくる。俺は慌ててメルとサキのもとに戻る。
「アンタ……無茶しすぎよ……!」
怒り気味にそういうメル。俺は苦笑いしながら小さく謝る。
「……見ましたよね、アストさん」
と、サキが俺に対してそう話しかけてくる。見た……先程のいきなりの距離の延長……サキは何か気づいたのだろうか?
「え、えぇ……ですが、何かわかったんですか?」
「……先程、間違いなくアストさんは、ルミスとの距離を詰めていた……それなのに、瞬時にルミスはアストさんと距離をとることができた……あれ、人間技じゃないですよね?」
「それは……俺も思いましたが。ですが、それで何かわかったんですか?」
と、サキはなぜか俺とメルの前に歩いていき、ルミスと対峙する。
「なんですか、アナタは? 私はアストさん以外に興味はありません。邪魔さえしなければ殺さないであげますよ」
そう云うルミスの言葉も無視して、サキはニヤリと微笑む。
「最初は……私より上の能力を持った人間だと思いました。ですが、同時に疑問に思ったのです。人間がサキュバスのような『心酔』の能力をもつことができるのか……と」
サキがそう言うと不満そうな顔でルミスがサキを見る。
「そして……先程のアストさんの攻撃に対する動きで確信しました。私は思い違いをしていた……間違っていたのだと」
「アナタ……何を言っているんです? 思い違い? 間違っていた? フフッ……そうですね。女神である私と戦うなんてことはそもそも間違っていて――」
「いいえ。間違っているのはルミス。アナタです」
そう言ってサキはルミスを指差す。ルミスは不満そうな顔で俺たちを見ている。
「女神ルミス……いいえ。アナタは女神ではない。それこそ……私と同じ存在です」
「私と同じ……え? サキ、それって――」
と、俺が先を続けようとすると、サキは笑ってこちらを見る。
「えぇ。女神ルミスは女神なんかじゃありません。私と同じ……彼女は、サキュバスです」
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