第205話 牙をむく仲間達

 いつのまにかリアが俺の前に現れ、俺の一撃を受け止めたのである。

「り、リア……な、何して――」


 俺が問いかける前にリアはいきなり俺の腹に向かって剣を突き刺してきた。俺は慌てて背後に飛び退くが、その剣先は俺の腹に食い込む。


「アスト!」


 メルの声が聞こえる。腹部に痛みを感じながらも俺はメルのところまで戻ってきた。


「な、なんで、リアが……」


 俺は腹部を抑える。メルがさっそく治癒魔法をかけてくれたので、そこまで致命傷にはならなかった。


 しかし、俺の頭には2つ疑問が浮かぶ。一つ、なぜ、リアが俺に剣を向けてきた? それは大きな疑問である。だが、もう一つの疑問の方がどうしても気になってしまった。


 どうして、リアが……腕輪の力を解放した俺の速さに付いてこられた?


 俺は即座にリアのことを見る。リアは虚ろな瞳で、剣を構えたままフラフラしている。剣は……レイリアが封印された剣ではない。つまり、先程俺に付いてきたのはリア自身の力ということになるが……


「あり得ない……」


 思わずそう呟いてしまった。


「あり得ない? いいえ、あり得ます。彼女は私を選択したんです。同じパーティの仲間ではなく、女神である私のことを!」


 嬉しそうにルミスはそう言うと、今度はこの上なく邪悪に微笑んで俺たちのことを見る。


「ですから……仲間同士で存分に殺し合ってくださいね」


 ルミスがそう言うと同時にミラとラティアもうつろな瞳のままに俺の方を見てくる。


「……マジですか」


 俺はすぐにメルとサキの方を見る。


「お二人はとにかく離れていてください」


「え……で、でも、アンタ……」


「離れていてください!」


 強く言うとメルは悲しそうな目で俺を見る。と、サキが何かを察したかのようにメルの肩を叩く。


「……アストさん、もう少し、頑張っていただけますか?」


「え? もちろん、がんばりますけど……どういうことです?」


 と、サキは、邪悪な笑みを浮かべているルミスのことを見る。


「……あの人、どうにも変な感じがするんです。その変な感じんの正体があともう少しでわかる気がするんです」


 サキはそう言ってルミスのことを見ている。ルミスの表情は真剣だった。これはもしかすると、少し希望がもてるかもしれない。


「……わかりました。できるかぎり、がんばりますよ」


 そう言って俺は今一度剣を握る。こちらに立ちはだかっているのは……俺の仲間たちだ。


「……皆さん、少し我慢してください」


 俺がそう言うと同時に、うつろな瞳のままでリアがこちらに襲いかかってきた。どう考えてもリアのいつもの速さではない。


 なんとか剣戟に対応するのが精一杯……と、その時だった。


 ヒュン、と、頬を何かが掠める。と、壁に氷の刃が突き刺さっていた。ラティアがこちらに向かって氷の刃を飛ばしてきたのだった。


 その隣ではミラが杖を構えている。瞬時に俺は理解する。


 これは……動き続けていなければいけないのだ、と。


 それからは転生してから初めて死を実感する時間だった。飛んでくる氷の刃、そして、毒、麻痺の状態異常魔法、さらに物凄い速さで突っ込んでくるリア……それらを総て対応しなければならなかったのだから。


「さすが、勇者アキヤの力! ここまでやっても全部対応できるなんて!」


 なぜか嬉しそうに笑顔でそういうルミス。一旦、三人の攻撃が止んだ。


「アンタ……無理しすぎよ……」


 悲しそうな顔でそういうメル。治癒魔術をかけてくれるが、怪我よりも体力の消耗のほうが著しかった。


「……アストさん、一つ、確認したいことがあるんです」


 と、そんな折にサキが俺に話しかけてくる。


「……確認したいこと?」


「えぇ……あの人についてです」


 そう言ってサキはルミスのことを見てから、俺に小さな声で囁いた。


「……それ、かなり無茶なこと言っているの、わかっています?」


 俺が苦笑いしてもサキは真剣な表情だった。


「アストさんなら、その無茶が可能だと思っています」


 サキにそう言われてしまっては……やるしかなかった。俺だってそれしか打開策はないと思っていたわけだし。


「作戦会議は終わりましたか? さぁ! 殺し合いを再開しましょう!」


 ルミスがそう言うと同時に三人が襲いかかってくる。俺は剣を握り締める。それと同時に、腕輪の輝きが一段と増したのであった。

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